地理学評論 Vol. 93, No. 5 2020年 9月 - 日本地理学会

●――論 説
森の知識は生涯を通じていかに獲得されるのか──エチオピア南西部の焼畑民における植物知識の性・年齢差── 佐藤廉也・351–371

 

●――短 報
中国人技能実習生の増加鈍化期における送り出し機関の方針転換──中国山東省青島市を事例に── 
宋 弘揚・372–386

 

●――書 評
金坂清則: イザベラ・バードの日本奥地紀行を再訪(溝口常俊)・387–388

川合泰代: 聖地への信仰――地理学からのアプローチ(千田 稔)・389–390

海津正倫: 沖積低地――土地条件と自然災害リスク(鈴木康弘)・391–392

犬井 正編: 日本の農山村を識る――市川健夫と現代の地理学(戸井田克己)・393–394

矢ケ﨑典隆・加賀美雅弘・牛垣雄矢編著: 地理学基礎シリーズ3 地誌学概論(第2版)
(田林 明)・395–396

羽山久男: 徳島藩分間絵図の研究(岩鼻通明)・397–398

千葉県高等学校教育研究会地理部会編: 新しい地理の授業
――高校「地理」新時代に向けた提案(竹内裕一)・399–401

 

青木栄一先生のご逝去を悼む・402–403

2020年秋季学術大会プログラム・404–416

学界消息・417–418

2020年度公益社団法人日本地理学会定時総会記事・419–423

会  告・表紙2

2021年春季学術大会のお知らせ(第1報)・表紙2

 

論説

森の知識は生涯を通じていかに獲得されるのか──エチオピア南西部の焼畑民における植物知識の性・年齢差──の人文地理学におけるメンタルヘルス研究の展開

佐藤廉也
大阪大学

森の資源に依存して暮らす人びとが生涯を通じて植物知識をいかに獲得していくのかを検討するために,エチオピアの焼畑民マジャンギルを対象に植物知識を測るテストを実施し,その結果を性・年齢に注目しつつ分析した.テストは植物名の知識,樹木利用知識,樹木の断片から樹木名を同定する能力,というレベルの異なる3種を設定した.その結果,植物名と利用知識では,10歳代には急激に,20歳代以上には緩やかに,年齢とともに得点が増加する傾向が認められる一方,生業の性分業に由来すると推測される知識量の性差がみられた.同定テストでは,30歳代までは年齢が高くなると得点も高くなる傾向があるのに対し,40歳代以上では逆に年齢と得点に負の相関が認められ,知識のレベルによって獲得・維持パターンが異なるという結果が得られた.以上の結果と生業活動に関する情報を合わせ,植物知識が生業活動と密接に関連しつつ獲得・維持されるという示唆が得られた.

キーワード:ローカルノレッジ,知識の獲得,焼畑民,民族植物学,生活史,エチオピア

(地理学評論 93-5 351-371 2020)

 

短報

中国人技能実習生の増加鈍化期における送り出し機関の方針転換──中国山東省青島市を事例に──

宋 弘揚
東京大学大学院生

本稿では,渡日中国人技能実習生の増加鈍化期における中国山東省青島市の送り出し機関に注目し,送り出し方針の転換とそれに伴う機関群の再編を考察した.日本に特化した送り出しを行ってきた各機関は,技能実習業務から撤退したり,派遣地域と業務内容の多角化を図ったりした.方針の転換は,大きく「多角化型」と「維持型」の2つに整理することができる.その結果,青島市の機関群の一部では,送り出し方針の多角化・高度化を通じた機関間の「棲み分け」が進行している.

キーワード:送り出し機関,送り出し方針,労務輸出,外国人技能実習制度,青島市

(地理学評論 93-5 372-386 2020)