地理学評論 Vol. 93, No. 6 2020年 11月 - 日本地理学会

●――論 説
秋芳洞内の小気候と観光客への影響 安藤奏音・425-442

高解像度DEMを用いた山頂周辺の起伏と平均傾斜に基づく世界の山の険しさの評価 山田周二・443-463

 

●――書 評
松島亘志・成瀬 元・横川美和編著:土砂動態学――山から深海底までの流砂・漂砂・生態系(金 幸隆)・464-466

八島邦夫編著:日本の海と暮らしを支える海の地図――海図入門(田村俊和)・467-468

岡田篤正:中央構造線断層帯――最長活断層帯(四国)の諸性質(堤 浩之)・469-470

石原 潤:中国の市(いち)――発達史・地域差・実態(林 和生)・471-473

 

学界消息・474

会  告・表紙2,3および475-476

 2021年日本地理学会春季学術大会(オンライン)のお知らせ(第2報)・表紙2,3

 

論説

秋芳洞内の小気候と観光客への影響

安藤奏音
東京大学大学院生

観光洞内の二酸化炭素濃度の上昇は人体への健康被害を引き起こすため,モニタリングの実施が推奨されている.秋芳洞は世界最高水準の年間観光客数を持つ観光洞の一つである.しかし,大気環境やその状態が観光客に与える影響に関する追究が不足している.そこで,秋芳洞内の小気候の実態を明らかにし,観光客の心身に与える影響を把握することを本研究の目的とした.夏季と冬季に洞内で定点観測と移動点観測を行い,気温,相対湿度,二酸化炭素濃度を測定した.その結果,夏季の気温の変動は1°C以内,相対湿度は94%以上を維持し,外気による移流や混合の影響が小さいと考えられた.二酸化炭素濃度は人体への健康被害を引き起こす基準を上回った.また,洞内人口密度の算出結果から,観光客同士が親密距離に侵入し合う時間帯があった.以上の結果を踏まえると,自然条件に基づく観光客の適正収容量の算出が推奨されているが,観光客の安全面という人的条件も考慮すべきであると本研究は指摘する.

キーワード:観光洞,大気観測,二酸化炭素濃度,観光客の安全,観光洞ガイドライン

(地理学評論 93-6 425-442 2020)

 

論説

高解像度DEMを用いた山頂周辺の起伏と平均傾斜に基づく世界の山の険しさの評価

山田周二
大阪教育大学

本研究は,約30 mメッシュのDEMを用いて,北緯60度~南緯60度のすべての陸地にある山頂を抽出した.半径1 kmの円内の中心点が,その円内で最も標高が高い場合に,その中心点を山頂と定義し,その円内の起伏と平均傾斜を計測した.その結果,起伏が1,500 m以上で平均傾斜が45°以上と,きわめて険しい山頂のほとんどは,ヒマラヤ山脈に分布しており,それに次いで険しい,起伏が500 m以上で平均傾斜が35°以上の山頂は,アルプス・ヒマラヤ地域および環太平洋地域,中央アジア,アフリカ大地溝帯といった地殻変動や火山活動が活発な地域に分布することがあきらかになった.また,起伏が500 m以上で平均傾斜が35°未満の山頂は,上記の地域に加えて,大陸縁に分布すること,そして,起伏が500 m未満で平均傾斜が35°以上の山頂は,東アジア南部の塔状カルストに限られること,があきらかになった.

キーワード:DEM,SRTM1,地形分析,起伏,険しさ,山頂

(地理学評論 93-6 443-463 2020)