学会賞

公益社団法人日本地理学会賞に関する規程

公益社団法人日本地理学会賞受賞候補者の選考に関する内規

優秀論文部門

2019(令和元)年度

芝田篤紀 会員

「ナミビア北東部ブワブワタ国立公園における住民の生業活動と植生の関係」地理学評論,第91巻第5号

本研究は,アフリカ西南部に位置するナミビア共和国北東部のブワブワタ国立公園で生活するクエの人々と自然環境との相互関係について,実証的に明らかにした論文である.対象地域での計4カ月間のフィールドワークでは,参与観察と聞取りによる定性的な調査に加え,植生調査,地形測量といった定量的手法を用い,国立公園制定後の住民生活環境の変化や周辺植生への影響を明らかにした.住民の生業活動と植生の関係を多角的に考察している点が評価される.また,伝統的な農法も周囲の環境に配慮された形で実施されていることなど,在地の知と活動が新たな状況で自然環境の管理に貢献している点を見出しており,興味深い.本研究の大きな特徴といえるハイブリッドな手法や立場をとることで,対象地域における人間と自然との関係を客観的かつ動態的に記述することに成功しており,グローバリズムと伝統社会との対比という枠組にもとづいた意欲的な実証研究に仕上がっている.人文地理学と自然地理学の融合がうまく図られた論文で,地理学研究において大きな意義が認められる.

歴代受賞者

若手奨励部門

2019(令和元)年度

松宮邑子 会員

「ウランバートルにおけるゲル地区の形成と居住者の移住・移動・定着」地理学評論,第92巻第2号

本研究は,「工業化なき都市化」ともいわれる過剰都市化の視点から,モンゴルの首都ウランバートルにみられる特徴的な居住地ゲル地区の形成・拡大の過程を明らかにした論文である.筆者は,社会・経済の転換が都市内部構造を規定していくと結論づけた既存研究のマクロな見方だけでなく,細密な現地調査にもとづくミクロレベルの分析から,住まいの獲得という居住者の実践過程を把握した.既存研究を丁寧に整理したうえで,従来のゲル地区のステレオタイプ的な理解に対し,居住者の移動や来歴などの考察から新たな知見を提供している.空間を不変的・固定的なものとして捉えるのではなく,人々の行為や関係性の中からとらえ直すことで,居住空間の形成・拡大に対する動態的な解釈を行っている点は注目に価する.データの入手困難が想定される中で,100人にも及ぶゲル居住者へのインタビュー調査にもとづく詳細な記述は,筆者のオリジナルなデータとして意味をもつ.ミクロな個人の行動・社会関係とマクロな都市空間の変化と社会構造の変化を結びつけ,変貌途上の都市空間の実態を明らかにしている点が高く評価される.

歴代受賞者

論文発信部門

2019(令和元)年度

崎田誠志郎 会員

「ギリシャ・アテネにおける水産物市場の特徴と現状」E-journal GEO 第13巻第2号

本研究は,緊縮財政期のギリシャにおける水産物流通の現状を,水産物が集積する首都アテネの水産物市場に着目し,鮮魚店の経営戦略,産地,個別の流通ルートの構築などから明らかにしたものである.既存研究や統計資料による知見に加え,長期にわたる対象地域での精緻な調査を通じて,水産物流通の状況を非常に具体的に把握している.本研究によって,ギリシャ漁業の特徴とされる漁獲魚種の多様性は,アテネの市場における取扱水産物の多様性にも反映されていたことが確認された.そうした多様性の要因として,各産地の自然生態的条件や漁法の種類の違い,さらにはギリシャ社会の文化・宗教的側面も反映されていることなど,興味深い議論を展開している.本研究によって,具体的な地域の事象と関連付けながら生産・流通・消費の各段階を一貫的に捉える,という地理学的な見方の有効性が示されたことは評価に価する.対象地域はアテネであるが,本研究の手法・考え方は,太平洋の島国など多くの地域に応用可能であることが期待される.

歴代受賞者

優秀著作部門

2019(令和元)年度

本岡拓哉 会員

『「不法」なる空間にいきる:占拠と立ち退きをめぐる戦後都市史』(大月書店,2019年)

本書は,戦後期の都市におけるバラック街の生成と消滅の過程を分析した著作である.「不法占拠」とラベリングされたこれらの地域の実態を把握することは,資料が限られていることもあり,きわめて難しい課題である.本書では,自治体による調査資料や新聞記事などを幅広く収集し,綿密に分析することにより,バラック街の実態やそれを取り巻く地理的・社会的な状況を,多面的に描き出すことに成功した.さらに,聞取り調査によって得られた当事者の語りをもとに「生きられた空間」としてのバラック街を論じ,住民の内面をも含みこんだコミュニティの動態や,マイノリティが相互に取り結ぶ社会関係を明らかにした.このような研究成果は,国内外で積み重ねられた理論的知見を堅実な事例研究へと結実させたという意味でも,地理学の発展にとって大きな意義をもつ.また近年では隣接分野においても戦後期の都市社会への関心が高まっており,本書により学際的な対話の可能性が開かれたことも,高く評価される.

歴代受賞者

著作発信部門

2019(令和元)年度

横山祐典 (非会員)

『地球46億年気候大変動:炭素循環で読み解く,地球気候の過去・現在・未来』(講談社,2018年)

本書は,地球の気候の過去・現在・未来についてストーリー性を維持しながらわかり易く解説しており,近年取り上げられることの多い温室効果ガスの増加と地球温暖化の関係などを理解する上でも,大変示唆に富む内容を豊富に含んでいる.本書の魅力は,何と言っても,世界の第一線で活躍してきた(或いはしている)研究者達の話が,臨場感あふれる語り口で記されていることである.この1冊を読むだけで,この分野の研究史の主要で重要な流れがわかるので,一般読者のみならず専門家が読んでも面白い.研究者として最前線で活躍している著者ならではの写真やエピソードも散りばめられており,氏の文筆者としての才能も感じさせる魅力的な著作である.地理学,特に自然地理学関連分野の視点から,地球環境への関心を呼び起こす発信という点で,高く評価できる.

歴代受賞者

地理教育部門

2019(令和元)年度

碓井照子 会員

地理教育の普及 特に高校「地理総合」の実現に多大な貢献

碓井照子会員は日本学術会議会員を務め,2007年の対外報告「現代的課題を切り拓く地理教育」の取りまとめ,2009年の地理教育分科会の立ち上げなどにかかわり,地理教育の復興に尽力した.さらに高校での新科目「地理基礎」,「歴史基礎」の必修化を打ち出した2011年の学術会議の提言「新しい高校地理・歴史教育の創造―グローバル化に対応した時空間認識の育成―」の作成を取りまとめ,その後の2022年度からの高校での新科目「地理総合」,「歴史総合」必履修化の決定に大きく貢献した.必履修決定後も提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」(2017年)の取りまとめ,シンポジウムの実施,「地理総合」の内容を解説した『「地理総合」ではじまる地理教育:持続可能な社会づくりをめざして』(古今書院,2018年)の刊行に携わるなど,「地理総合」実施に向けての環境整備に尽力している.このように,地理教育の普及,特に高校「地理総合」の実現に大きく貢献した.

歴代受賞者

学術貢献部門

2019(令和元)年度

海津正倫 会員

日本やアジアの沖積低地における地形環境や地形発達ならびに災害に関する研究を重ね 地形学のみならず環境学や防災分野への多大な貢献

海津正倫会員は沖積平野研究の第一人者で,地理学評論を始めとした国内の学術雑誌に多くの論文を執筆すると共に,ガンジスデルタをはじめとするアジアの大規模デルタの地形環境や地形発達等に関する国際的な研究にも携わり,国際ジャーナルにも多数の論文を発表してきた.また,『沖積低地の古環境学』(古今書院,1994年)や『沖積低地の地形環境学』(古今書院,2012)など,多くの学術図書の執筆にも関わり,研究成果の体系化と普及にも努めてきた.さらに,洪水や津波被害に関する災害研究にも尽力し,今年には『沖積低地:土地条件と自然災害リスク』(古今書院,2019年)を出版するなど,防災教育や防災政策にも資する研究成果を社会へ還元してきた.これらの一連の活動は地道な学術的調査研究に裏付けられたものであり,学術貢献部門候補者としてふさわしい業績を有するものと考えられる.

歴代受賞者

社会貢献部門

2019(令和元)年度

今尾恵介 会員

地名や地図に関係する数多くの著作 とりわけ地形図上に示された鉄道施設を丁寧に辿る一連の著作群を通じて 地形図上で鉄道とその跡地を読む愉しさを社会に伝えるとともに 様々な機会を捉えてその魅力を社会に発信

今尾恵介会員は,地名や地図に関係した著作を70編近く刊行している.『日本鉄道旅行地図帳 全線・全駅・全廃線』では, 初めて地形図上に鉄道路線と駅の位置を忠実に配置し,シリーズ累計で168万部を刊行した.『日本200年地図:伊能図から現代図まで全国130都市の歴史をたどる』は,日本全国学校図書館協議会選定図書に指定された.これらの業績は,第1 に,多数の著作により,地形図上で鉄道とその跡地を読む楽しさを広く社会に伝えた.また,第2 に,著作のみならず,テレビ・講演等を通じて,地図を使った地理の楽しさを広く社会に伝えた.たとえば,2015 年の「G空間EXPO2015 日本地理学会主催シンポジウム」や,2018 年の「地図から読み解く日本200年の変遷―伊能図から現代地図までを比較して―」の講演などである.これら一連の活動により,学会賞社会貢献部門にふさわしい業績を有するものと評価できる.

歴代受賞者

団体貢献部門

歴代受賞者