地理学評論 Vol. 88, No. 1 2015 年 1 月

●―論 説

フランスのショレ・アパレル縫製産地の変容――制度・慣行の役割―― 立見淳哉・124

1950 年代後半の東京における「不法占拠」地区の社会・空間的特性とその後の変容 本岡拓哉・2548

高度成長期の地方織物産地における「集団就職」の導入とその経緯――福井県勝山市の事例から―― 中澤高志・4970

●―書 評

横山昭市: 国際関係の政治地理学――現代の地政学――(山下清海)・7172

宮本真二・野中健一編: ネイチャー・アンド・ソサエティ研究 第1巻 自然と人間の環境史(溝口常俊)・7274

秋山 侃・冨久尾 歩・平野 聡・石塚直樹・小川茂男・岡本勝男・齋藤元也・内田 諭・山本由紀代・吉迫 宏・瑞慶村知佳編著: 農業リモートセンシング・ハンドブック 

増補版(DVD 付)(春山成子)・7475

学界消息・76

2014年日本地理学会秋季学術大会および秋季代議員会記録・7779

会  告・表紙2,3および80-81

2015年春季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2,3

 

 

論説

フランスのショレ・アパレル縫製産地の変容──制度・慣行の役割──

立見淳哉
大阪市立大学創造都市研究科

本稿は,フランスのショレ・アパレル縫製産地が,1990年代以降のアパレル製造業の劇的衰退の中で高級品ブランドの下請生産へとシフトして生き残りを図ることができた要因を,制度・慣行概念を手掛かりに明らかにした.市場と高級品ブランド企業の戦略変化に適応する産地企業の能力は,以下の3点から理解することができる.第1に,高級ブランド企業とショレ産地の生産者の「生産の世界」が相互に接近し,「品質の慣行」の共有によって取引の調整がなされた(「可能世界」の親和性).第2に,パリとの地理的近接性や賃金水準などの諸条件に加えて,地域主義的なメンタリティや協調的な労使関係などの地域的な諸慣行が,産地企業の技術力と産地内協力を可能にした(諸慣行の構築).第3に,それらの諸慣行はそれぞれ単独で機能するのではなく,相互に補完し合い,一つのシステムとしてショレ産地の発展を維持していたといえる(制度補完性).

キーワード:ショレ・アパレル縫製産地,アパレル産業,高級品下請,制度補完性,制度・慣行

(地理学評論 88-1 1-24 2015)

 

1950年代後半の東京における「不法占拠」地区の社会・空間的特性とその後の変容

本岡拓哉
同志社大学人文科学研究所

第二次世界大戦後,日本の都市には住宅難によって公有地を「不法占拠」した居住地区が数多く存在した.本稿の目的は1950年代後半の東京における「不法占拠」地区の社会・空間的特性とその後の変容過程を明らかにすることである.前者については,都市の不便な場所にあること,居住環境が劣悪であること,貧困層や社会的に排除された社会集団が暮らしていたことの三点に集約でき,当時の不良環境地区の中でもその特徴は際立っていた.また,「不法占拠」地区の住宅や居住者は住宅市場や労働市場に組み込まれており,都市において孤立しておらず,周囲の地域と関係を有していたことも考えられる.後者の変容過程については,1960年以降,多くの「不法占拠」地区が住宅地ではない土地利用に変化し,消滅する一方で,残存する場合もあった.また,地区の変容の時期や過程は一様ではなく,それぞれの地区の実態や都市における位置づけによって規定されていた.

キーワード:「不法占拠」地区,スラム,戦後,東京,都市社会地理学

(地理学評論 88-1 25-48 2015)

 

高度成長期の地方織物産地における「集団就職」の導入とその経緯──福井県勝山市の事例から──

中澤高志
明治大学経営学部

本稿では,高度成長期の勝山産地において,「集団就職」が導入され終焉に至るまでの経緯を分析する.進学率の上昇や大都市との競合により,労働力不足に直面した勝山産地の機屋は,新規中卒女性の調達範囲を広域化させ,1960年代に入ると産炭地や縁辺地域から「集団就職者」を受け入れ始める.勝山産地の機屋は,自治体や職業安定所とも協力しながらさまざまな手段を講じ,「集団就職者」の確保に努めた.「集団就職者」の出身家族の家計は概して厳しく,それが移動のプッシュ要因であった.勝山産地の機屋が就職先として選択された背景としては,採用を通じて信頼関係が構築されていたことが重要である.数年すると出身地に帰還する人も多かったとはいえ,結婚を契機として勝山産地に定着した「集団就職者」もいたのである.高度成長期における勝山産地の新規学卒労働市場は,国,県,産地といった重層的な空間スケールにおける制度の下で,社会的に調整されていた.

キーワード:織物業,集団就職,地域労働市場,福井県勝山市

(地理学評論 88-1 49-70 2015)