地理学評論 Vol. 91, No. 6 2018年 11月 - 日本地理学会

●―論 説

商品化する農村空間における「真正」で多様なルーラリティの構築と並立──群馬県みなかみ町たくみの里を事例に── 朝倉槙人・437‒461

両大戦間期の貨物輸送における自動車の進出と国有鉄道の対応──大阪,神戸,京都を中心として── 森田耕平・462-486

 

●―短 報

養護教諭の暑熱に対する関心の契機と認識──熊谷市の小・中学校を対象として── 澤田康徳・487‒503

 

●―書 評

加藤和暢: 経済地理学再考̶̶経済循環の「空間的組織化」論による統合(加藤幸治)・504‒505

矢ケ﨑典隆編: 移民社会アメリカの記憶と継承――移民博物館で読み解く世界の博物館アメリカ(松山 洋)・506‒507

 

 

学界消息・508‒509

会  告・表紙2および510‒512

2019年春季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2

 

 

論説

商品化する農村空間における「真正」で多様なルーラリティの構築と並立──群馬県みなかみ町たくみの里を事例に──

朝倉槙人
京都大学大学院生

農村空間の商品化による地域活性化論が地理学や周辺諸分野で注目されている.既往研究の多くがルーラリティを観光資源とみなし,その商品化の過程や持続可能性を検討してきたのに対し,本稿では群馬県みなかみ町たくみの里におけるルーラリティの特質に留意して,ルーラリティの構築がホストの実践や商品の構築に果たす意味を,ホストの立場に即して検討した.「真正」なルーラリティを担保する集合的記憶のスケールは重層的であり,「真正」なルーラリティの構築が重視されるたくみの里においては,多様な集合的記憶を根拠とした多様なたくみの里像が地域にとって「真正」なものとなる.加えて,ルーラリティの存立に資するホストの実践が,地域の存立に資する実践とみなされることで,設立期に想定された「真正」なルーラリティに反するたくみの里像でさえ,当地にとって「真正」なものとなる.ルーラリティの構築をめぐるホストの実践の諸相をとらえなければ,農村空間の商品化という現象をとらえることはできない.

キーワード:農村空間,商品化,ルーラリティ,真正性,みなかみ町

(地理学評論 91-6 437-461 2018)

 

 

 

両大戦間期の貨物輸送における自動車の進出と国有鉄道の対応──大阪,神戸,京都を中心として──

森田耕平
立命館大学大学院生

本稿は京阪神3都市を中心とした貨物輸送を事例に,両大戦間期の国有鉄道と自動車の関係について,両者の攻防を軸に検討した.国有鉄道は主に50 km程度までの輸送において貨物自動車の攻勢を受け,道路改良の早かった阪神間のように輸送量が大幅に減少する場合もあった.近距離を中心に貨物自動車の利用が広がった背景として,輸送の迅速性に加えて運賃の低廉性が重要であった.国有鉄道が従価等級制運賃をとる関係で,付加価値の高い雑貨や工業製品は貨物自動車への転移が生じやすかった.営業割引に制約の多い国有鉄道は,小運送業者の仕立てる小口混載を利用した小口雑貨類の間接的な運賃値下げを計画し,業者との連携の下に京阪神間で低廉な速達の取扱いを展開した.両大戦間期に実施された貨物自動車対抗策の基本方針(小口混載の奨励,運賃の特別割引,輸送時間の短縮)は,第二次世界大戦後の東海道を中心とした路線トラック対抗策で再現した.

キーワード:両大戦間期,国有鉄道,貨物自動車,輸送距離,小口混載,京阪神

(地理学評論 91-6 462-486 2018)

 

 

短報

養護教諭の暑熱に対する関心の契機と認識──熊谷市の小・中学校を対象として──

澤田康徳
東京学芸大学教育学部

本研究では,日本有数の暑熱地域である熊谷市の小・中学校において,アンケート調査により養護教諭の職務上の暑熱に対する関心の契機と認識を明らかにした.関心の契機の得点(5段階)にクラスター解析を施した結果,各契機群中の上位得点の割合が,市~国の政策で大きい政策契機群,熊谷市で高温を記録した事実で大きい事実契機群,市内での異動で大きい経験契機群に類型化された.情報は,政策契機群では国や市の情報を多用し,事実契機群では気象庁などの公開情報を,経験契機群では身近な情報を,それぞれ多用している.暑熱の認識地点は,政策契機群で市の情報と対応する郊外に多い.事実契機群で推測により都心,経験契機群で実際の訪問や異動により都心および郊外北が,それぞれ多く,契機群ごとに空間認識や認識理由が異なる.近年,地域での気候対応が求められ,養護教諭の情報活用や気候認識を踏まえた養成や研修の必要性を本研究結果は示している.

キーワード:暑熱,気候認識,養護教諭,熊谷市

(地理学評論 91-6 487-503 2018)