地理学評論 Vol. 96, No. 5 2023年 9月 - 日本地理学会

●――論 説
在日外国人の集住は統合を阻害するか──近隣ネットワークの媒介効果に着目した分析── 
 滕 媛媛・埴淵知哉・中谷友樹・361-383

アルコール依存症者の「癒しの場所」──ライフヒストリーにみる社会生活のリズムと場所──
 中島芽理・384‒411

 

●――書 評
平井松午・島津美子編:〈稿本・大名家本〉伊能図研究図録(河村克典)・412‒413

山下清海: 華僑・華人を知るための52章(杜 国慶)・414‒415

北 雄介: 街歩きと都市の様相――空間体験の全体性を読み解く(埴淵知哉)・416‒417

酒井治孝: ヒマラヤ山脈形成史(熊原康博)・418‒420

西脇保幸: 地域発見と地理認識――観光旅行とポタリングの楽しみ方(松山 洋)・421‒422

 

2023年日本地理学会秋季学術大会プログラム・423‒436

学界消息・437‒438

2023年度公益社団法人日本地理学会定時総会記事・439‒442

会  告・表紙2および443‒444

 2024年春季学術大会のお知らせ(第1報)・表紙2

 

論説

在日外国人の集住は統合を阻害するか──近隣ネットワークの媒介効果に着目した分析──

滕 媛媛・埴淵知哉**・中谷友樹***
東北大学東北アジア研究センター**京都大学大学院文学研究科***東北大学大学院環境科学研究科

在日外国人の集住地区をめぐっては,その特徴や形成要因に関する厚い研究蓄積があるものの,集住による社会的影響は十分に解明されていない.本研究では,在日外国人に対するインターネット調査を実施し(9割弱は日本語版の調査票に回答),集住が近隣ネットワークを介してホスト社会への統合にどう作用するのかを定量的に検証した.分析の結果,在日外国人の集住と統合の間には直接的な関係がないものの,近隣ネットワークが媒介する有意な負の間接効果が確認された.その間接効果として,(1)日本人との近隣ネットワークは統合を促進するものの集住がそのネットワーク形成を妨げる効果,(2)外国人との近隣ネットワークは統合を妨げるものの集住がそのネットワーク形成を促進する効果,という二つの経路が示された.本研究から,在日外国人の集住と統合を結ぶ媒介因子として,近隣ネットワークとその種類に着目することの重要性が示唆された.

 

キーワード:社会ネットワーク,社会関係資本,移民統合指標短縮版(IPL-12),媒介分析,インターネット調査

(地理学評論 96-5 361-383 2023)

 

論説

アルコール依存症者の「癒しの場所」──ライフヒストリーにみる社会生活のリズムと場所──

中島芽理
神戸大学大学院生

本稿ではアルコール依存症者のライフヒストリーを通じて依存症者の場所の変容を明らかにする.人文地理学の「癒しの景観」研究では,依存症からの回復には安定した場所の確立が重要であるとされてきた.本稿では,場所概念を再検討した上で「癒しの場所」概念を提起する.場所を日常的に繰り返し経験される社会関係の中で変化する出来事ととらえ,それを生成するリズムに着目する.依存症者は当初,飲酒のリズムにおいて「癒しの場所」を得るが,それは規範的な社会生活のリズムとの不一致によって損なわれる.依存症者は回復のための会合である自助グループや,非公式的な集まりにおいて,社会生活のリズムに準拠しながら主体的に社会関係を構築することで「癒しの場所」を生起する.さらに,祈りのような身ぶりの反復から生じる自他の生への肯定からも,場所が生成される.このような「癒しの場所」の創出は,喪失感や恐れを受容する過程を伴うものでもあった.

 

キーワード:アルコール依存症,自助グループ,リズム,「癒しの場所」,ライフヒストリー

 

(地理学評論 96-5 384-411 2023)