地理学評論 Vol. 96, No. 2 2023年 3月 - 日本地理学会

●――論 説
福井県大野市の住民による地下水管理と自治体行政との関係
 河村 光・125-145

地方分権に向けた自主財源基盤確立の可能性と課題──東京大都市圏の基礎自治体を事例に──
 佐藤 洋・146-173

国政・地方選挙における投票行動の差異──同日選挙の投票率の分析から──

 松本健佑・174-193

 

●――書 評
藤岡換太郎:天変地異の地球学──巨大地震,異常気象から大量絶滅まで(小野映介)・194-195

福井一喜:「無理しない」観光──価値と多様性の再発見(中村 努)・196-197

後藤範章編著:鉄道は都市をどう変えるのか──交通インパクトの社会学(松山 洋)・198-199

 

2023年日本地理学会春季学術大会プログラム・200‒224

学会消息・225‒226

会  告・表紙2, 3および227‒229

 2023年日本地理学会秋季学術大会のお知らせ(第1報)・表紙2

論説

福井県大野市の住民による地下水管理と自治体行政との関係

河村 光
名古屋大学大学院生

本稿では,福井県大野市を事例に,市および住民団体が行う地下水管理における相互の関係とその背後にある地下水に対する考えを明らかにした.そして,地下水管理の地域的課題を整理し,事例から示される地下水管理の可能性を考察した.大野市では,生活用水は地下水からもたらされる恩恵であり,その恩恵を受け続けるために住民による地下水管理が行われている.こうした規範が薄れ,地下水障害が発生した.地下水障害を契機に行政による地下水管理が開始され,地下水の量的・質的管理では市と住民とが協働している.一方で,市では地域の社会経済状況に応じて,地下水管理と相反するような政策がとられていることから,住民は市と対立している.こうした対立を解消するため,主体間の利害調整が必要である.住民は地下水に対する考えに基づいて地下水管理を行っているため,これを再評価し,利用者による地下水管理を形成することで,公的機関の課題を緩和することが可能となる.

キーワード:地下水障害,地下水管理,生活用水,住民団体,大野市

(地理学評論 96-2 125-145 2023)

 

論説

地方分権に向けた自主財源基盤確立の可能性と課題──東京大都市圏の基礎自治体を事例に──

佐藤 洋
東京大学大学院生・日本学術振興会特別研究員

本稿では東京大都市圏における基礎自治体による地方税の増加要因の認識,重視する税収確保策,地方税割合の規定要因の関係を検討することで,地方分権に向けた自主財源基盤確立の可能性と課題について考察した.本稿の分析により得られた課題は,自治体が重要視する税収確保策は主に歳入構造に規定されており,一部地域の近隣自治体間では施策に差異が生じていることである.その課題を踏まえて,地方税の増加要因の認識には空間的なまとまりがあり,空間分析により推定される地方税割合の規定要因と整合性があることから,地域特性に対応した施策により税収増加を実現させた自治体があることを明らかにした.それゆえに,地方分権に向けた自主財源基盤確立に対して,地域特性を踏まえた施策と課税ベースを増やすための広域連携の検討がなされることで,より効果的な税収確保策が実現する可能性がある.

キーワード:地方税,課税権,広域連携,地理的加重回帰分析,東京大都市圏

(地理学評論 96-2 146-173 2023)

 

論説

国政・地方選挙における投票行動の差異──同日選挙の投票率の分析から──

松本健佑
大阪大学大学院生

国政選挙と地方選挙においてなぜ投票行動が異なるのかを明らかにするための手掛かりとして,本稿は国政選挙と地方選挙の同日選挙の投票率について分析した.2004~2013年の参議院選挙が地方選挙と同時に行われた際にどの程度投票率が上昇したのかを,差の差法によって分析した結果,地方選挙と同じ日に行われると参議院選挙の投票率は平均で6.6%ポイント上がることが明らかになった.また,参議院選挙の投票率を上げる効果は都道府県よりも市区町村の選挙のほうが大きかった.さらに,市区町村の選挙は農村的な地域でより投票率を上げることがわかった.兵庫県の投票率データからは,農村的な地域では普段の投票率の大小関係が「参議院選挙<市区町村の選挙」となっており,同日選挙の効果の地域差の背景にはこの現象があることが明らかになった.分析結果の解釈から,効果の地域差の要因は各選挙への関心度と選挙動員の程度の違いであることが示唆された.

キーワード:投票率,スケール,同日選挙,参議院選挙,地方選挙,差の差法

(地理学評論 96-2 174-193 2023)