地理学評論 Vol. 95, No. 6 2022年 11月 - 日本地理学会

●――短 報
中国農村における社会経済条件からみた住宅被害の地域差──2013年芦山地震の被災地の事例── 

黄  璐・351-366

 

●――書 評
平井松午編: 伊能忠敬の地図作製――伊能図・シーボルト日本図を検証する(出田和久)・367‒369

日本景観生態学会編: 景観生態学(原 裕太)・370‒371

横山 智: 納豆の食文化誌(松山 洋)・372‒373

BSN 新潟放送制作: ラジオ朗読番組記念CD
 ――イザベラ・バードが見た明治の新潟(小原丈明)・374‒376

日本堆積学会監修,伊藤 慎総編集: フィールドマニュアル 図説 堆積構造の世界(宇津川喬子)・
 377‒378

田邉 裕: 境界の政治地理学――境界は動くのか(加賀美雅弘)・379‒380

 

学会消息・381‒382

会  告・表紙2,3および383‒385

 2023 年春季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2,3

短報

中国農村における社会経済条件からみた住宅被害の地域差──2013年芦山地震の被災地の事例──

黄  璐
筑波大学大学院生

本研究は,2013年に中国四川省で起きた芦山地震を対象に,芦山県内の3地区(芦陽鎮,龍門郷,太平鎮)を事例地区として住宅被害をもたらした地域的要因を明らかにすることを目的とした.特に,本研究では,住宅構造の違い(鉄骨造,レンガ混用構造,伝統木造の住宅)に起因する建物被害に着目した.本研究では以下の点が明らかとなった.まず,3地区は標高の差はあるものの同一河川の氾濫原に位置しており,地形条件の差が住宅被害の差異の要因とは認められなかった.一方で,農業従事者の所得は他産業従事者と比べて低く,低所得の住民が安価なレンガ混用構造の住宅を建設する傾向にあり,3地区に共通して,こうした地震に脆弱な住宅が多く存在していたことが建物被害を大きくした.以上から,所得格差という社会経済条件の差異が被害の差異をもたらしたことが明らかになった.

キーワード:住宅被害,住宅構造,社会経済条件,農村部,中国芦山地震

(地理学評論 95-6 351-366 2022)