地理学評論 Vol. 93, No. 1 2020年 1月 - 日本地理学会

●―短 報
東京大都市圏における中国人ホワイトカラー層の住宅の購入動機と選好パターン
──インタビュー調査を用いて── 張 耀丹・1‒16

愛知県瀬戸陶磁器産地における産業用陶磁器生産の変化と流通構造 勝又悠太朗・17‒33

 

●―書 評
中澤高志: 住まいと仕事の地理学(加藤和暢)・34‒35

稲垣 稜: 都市の人文地理学(大塚俊幸)・36‒37

植村善博+治水神・禹王研究会: 禹王と治水の地域史(德安浩明)・38‒39

嘉数 啓: 島嶼学(松山 洋)・40‒41

熊谷圭知: パプアニューギニアの「場所」の物語――動態地誌とフィールドワーク(田和正孝)・42‒44

高木 仁: 人とウミガメの民族誌――ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁(横山 智)・45‒47

増田富士雄編著: ダイナミック地層学――大阪平野・神戸六甲山麓・京都盆地の沖積層の解析(小野有五)・48‒49

 

 

阪口 豊先生のご逝去を悼む・50‒51

門村 浩先生のご逝去を悼む・52‒53

学界消息・54‒55

2019年日本地理学会秋季学術大会および秋季代議員会記録・56‒58

会  告・表紙2,3および59‒60

2020年春季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2,3

 

 

短報

東京大都市圏における中国人ホワイトカラー層の住宅の購入動機と選好パターン──インタビュー調査を用いて──

張 耀丹
九州大学大学院地球社会統合科学府・大学院生

東京大都市圏における中国人ホワイトカラー層の住宅の購入動機や選好パターンを検討した.研究手法として東京大都市圏で自己居住用の住宅を購入した中国人22人にインタビュー調査を実施した.調査対象者の住宅購入動機として,賃貸住宅に比べたコストパフォーマンスの良さなどの経済的動機が重視されていたが,その場合でも,日本に長期間居住したいという意識が前提になっており,心理的な動機も存在していた.また,購入する住宅を決める際にも,自身が居住する際の満足度や長期間居住した場合に得られる資産的価値を重視していた.住宅を購入した地区の地理的な特徴として,就業地や商業施設への利便性が高い地域が好まれ,子どもの出生前に住宅を購入した人が多いこともあり,教育機関へのアクセスを重視する人は少なかった.加えて,購入地域の選定に際して中国人の集住地域にこだわることは少なく,購入地の分布は分散的であった.

キーワード:住宅購入動機,住宅選好パターン,在日中国人,東京大都市圏

(地理学評論 93-1 1-16 2020)

 

 

 

愛知県瀬戸陶磁器産地における産業用陶磁器生産の変化と流通構造

勝又悠太朗
広島大学大学院生

本稿は,愛知県瀬戸陶磁器産地を対象に,産業用陶磁器生産企業の生産品目の変化と生産流通構造を明らかにした.当産地は,伝統的な陶磁器産地として知られるが,現在は産業用陶磁器が主力製品となっている.研究対象企業は,生産品目の構成により3類型される.特化型企業I型は,架線碍子を主力製品とし,受注先企業との取引関係は総じて固定的である.特化型企業II型は,架線碍子以外の特定製品の生産に特化し,主力製品の高付加価値化を重視している.また,特化型企業はI型とII型ともに,地域内分業を基調とした生産構造を形成している.一方,多様化型企業は,製品の多品目化を進め,特定製品に依存しない生産構造を構築している.特化型企業に比べると多くの受注先企業を有しており,外注先企業は全国に広がっている.なお,いずれの企業類型も,県域を越えた広域的な受注連関を形成している.このように,当産地は,性格が異なる企業の集積により,産業用陶磁器を中心としたさまざまな製品の受注を広く獲得する産地として存続している.

キーワード:地場産業,製品転換,流通構造,産業用陶磁器,瀬戸陶磁器産地

(地理学評論 93-1 17-33 2020)