地理学評論 Vol. 92, No. 4 2019年 7月 - 日本地理学会

●―短 報
東京都区部におけるシェアハウスの立地特性とシングル女性の住宅ニーズからみたその背景 石川慶一郎・203–223

農山村に移住する女性たちの経験と場所感覚──福島県昭和村「織姫」を事例として── 久島桃代・224–240

 

●―書 評
上野和彦・本木弘悌・立川和平編:日本をまなぶ 西日本編; 東日本編(矢ケ﨑典隆)・241–242

F. Stuart Chapin III, Pamela A. Matson, Peter M. Vitousek 著,加藤知道監訳:生態系生態学 第2版(吉田圭一郎)・243–244

石川義孝編: 地図でみる日本の外国人 改訂版(清水昌人)・245–246

Martin F. Price 著,渡辺悌二・上野健一訳: 山岳(松山 洋)・247–248

 

地理学関係博士論文要旨(2018年度)・249–253

学界消息・254–256

日本地理学会春季学術大会および臨時総会・春季代議員会記録・257–262

会  告・表紙2および263–268

2019年秋季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2および264–265

 

 

短報

東京都区部におけるシェアハウスの立地特性とシングル女性の住宅ニーズからみたその背景

石川慶一郎
名古屋大学大学院生,日本学術振興会特別研究員

本稿は,東京都区部のシェアハウスの立地特性および台東区を事例としたシングル女性のシェアハウス居住の実態を明らかにした.分析結果から,シェアハウスの多くは,都心周辺部の鉄道駅付近に立地し,単身者向け賃貸住宅と比較して居住性が高いことが示された.それらは,ファミリー世帯の需要が低い商業地区に立地する住宅が転用されたものである.台東区の女性シェアハウス居住者は,低所得層の者が多い.彼女たちにとってのシェアハウスの優位性は,家賃が低いにもかかわらず,交通利便性の高い場所に住むことができ,台所や浴室といった住宅設備を快適に利用できることだった.一方,シェアハウス運営事業者はその管理物件にシングル女性のニーズを反映させていた.近年のシェアハウスの増加の背景には,都心周辺部での余剰住宅ストックの増加と,職住近接や生活の質の向上を指向するシングル女性のライフスタイルの存在があると考えられる.

キーワード:シェアハウス,立地特性,シングル女性,都市住宅市場,東京都区部

(地理学評論 92-4 203-223 2019)

 

 

 

農山村に移住する女性たちの経験と場所感覚──福島県昭和村「織姫」を事例として──

久島桃代
お茶の水女子大学基幹研究院

本稿では,女性に再生産役割を期待しがちな農山村において女性移住者たちが抱えている戸惑いと,地域に関わりたい,村で暮らし続けたいという意思や実践が生み出されていく過程を考察した.本稿が対象とする福島県昭和村では,「からむし」と呼ばれる植物を素材とする織物作りが行われ,「織姫」と呼ばれる女性移住者たちが技術を学んでいる.「織姫には嫁として村に残って欲しい」という村民たちの期待は小さくなく,それが独身の織姫の疎外感に結び付くことがある.また,経済的に不安定であることが,彼女たちの「刹那的な場所感覚」を形成していた.しかし織姫は,栽培農家とからむしを育てることを通じて,そこに埋め込まれた地域の記憶や,栽培農家に対する理解を深めていった.村の文化を次世代に伝えたい,村で暮らし続けたいという織姫の生き方は,性別役割とは別の形で地域に関わるものであり,彼女たちが去った後も村に影響を及ぼしている.

キーワード:農山村移住,女性移住者,ジェンダー,ライフストーリー,からむし織,福島県昭和村

(地理学評論 92-4 224-240 2019)