地理学評論 Vol. 91, No. 4 2018年 7月 - 日本地理学会

●―論 説

ジェントリフィケーションの過程からみた文化・消費の役割
──旧西ベルリン市ノイケルン区ロイター街区を事例として── 池田真利子・281‒310

広島の古日記天候記録による1779年以降の夏季気温の復元 平野淳平・三上岳彦・財城真寿美・311‒327

 

●―書 評

加賀美雅弘・荒井正剛編: 東京学芸大学地理学会シリーズII 3巻 景観写真で読み解く地理(松山 洋)・328‒329

神谷浩夫・中澤高志編集協力: ベーシック都市社会地理学(梶田 真)・330‒332

大塚 靖・山本宗立編著: ミクロネシア学ことはじめ――魅惑のピス島編(駒木伸比古)・333‒334

 

地理学関係博士論文要旨(2017年度)・335-340

 

学界消息・341-343

日本地理学会春季学術大会および臨時総会・春季代議員会記録・343-349

会  告・表紙2および350-355

2018年秋季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2および351-355

 

 

論説

ジェントリフィケーションの過程からみた文化・消費の役割──旧西ベルリン市ノイケルン区ロイター街区を事例として──

池田真利子
日本学術振興会特別研究員PD

本研究の目的は旧西ベルリン市インナーシティ,ノイケルン区ロイター街区におけるジェントリフィケーションの複合的過程を明らかにすることである.まず,ジェントリフィケーション指標モデルを援用し,機能・社会・構造・シンボルの各価値上昇を検証した.次に2000年代後半から増加した新利用(アート関連利用・新しい小売業・新しいサービス業)の地理的特徴や建造年代との関係性を明らかにした.また,新利用の事業主に対する聞取り調査からは,対象地域の商業環境の変化と要因を明らかにした.その結果,対象地域は初期に再活性化の様相を呈していたがジェントリフィケーションへと変容した点,シンボル的価値上昇がそのほかの価値上昇を誘発する点,中でもカフェ・バー,レストランのシーンガストロノミーがナイトライフ街区形成を促す点,それらが商業環境の変容に寄与する点から,ジェントリフィケーションにおいて文化・消費の役割が大きいことを示した.

キーワード:ジェントリフィケーション,商業環境,カフェ・バー,ナイトライフ,ベルリン

(地理学評論 91-4 281-310 2018)

 

 

論説

広島の古日記天候記録による1779年以降の夏季気温の復元

平野淳平・三上岳彦・財城真寿美**
帝京大学文学部 帝京大学文学部,**成蹊大学経済学部

広島の古日記天候記録に記された降水日数を基に夏季の気温変動を復元する目的で研究を行った.まず,1901~1950年の気象データを用いて6, 7, 8月の気温(月平均気温,月平均日最高気温,月平均日最低気温)と降水日数の相関係数の空間分布を調べた.その結果,西日本で7月と8月に月平均日最高気温と降水日数に強い負相関が認められ,降水日数から推定する気温要素として月平均日最高気温が最も適していることが判明した.次に,西日本の広島における古日記天候記録の降水日数を基に1779年以降の7月と8月の月平均日最高気温を復元した.その結果,東日本で飢饉が発生した1780年代,1830~1840年代は,広島の月平均日最高気温が低下していたことが推定された.一方,1820年代と1850年代は,19世紀の中で相対的に月平均日最高気温が高い年代であったことが推定された.

キーワード:気候復元,古日記天候記録,夏季,気温,降水,広島

(地理学評論 91-4 311-327 2018)