会長講演のお知らせ

下記の通り会長講演を行いますので多数御参加下さい.
1.日 時 3月28日(土)17時~17時45分
2.場 所 帝京大学11号館第8会場

 谷内 達(帝京大):地誌的記述における絶対量と相対量


 ブラジルはコーヒー豆の生産量・輸出量が世界第1位であることはよく知られている.またオーストラリアは羊毛の生産量・輸出量が世界第1位であることもよく知られている.しかし,ブラジルの総輸出額に占めるコーヒー豆の割合は1.9%,オーストラリアの総輸出額に占める羊毛の割合は1.5%にすぎず,これらの国の経済がそれぞれコーヒー豆・羊毛に著しく依存しているとは言えないのである.言い換えれば,生産・輸出の絶対量が多い(国別順位が上位である)という意味では,ブラジル・オーストラリアがそれぞれコーヒー豆・羊毛の主要な生産・輸出国であると言えるが,「ブラジルといえばコーヒー豆」,「オーストラリアといえば羊毛」とは言えないのである.仮にこれらの対照的な二つの視点のうち,前者を絶対量的視点(国別順位や世界合計に占めるシェアによる表現も含む),後者を相対量的視点と呼ぶことにすると,後者の方がより地誌的であるといえる.過去の伝統的な地理教育では前者の絶対量的視点が重視される傾向があり,本来あるべき地誌には程遠い「物資調達の地理」となってしまっていた.
 しかし相対量的視点でさえあれば地誌的であるとは限らない.たとえばインドはヒンドゥー教の国であり,隣のパキスタン・バングラデシュはイスラム教の国であるとされている.総人口に占めるイスラム系人口の割合は,パキスタン・バングラデシュではそれぞれ96%,88%であるのに対してインドでは13%であるから,このような記述は誤りではない.しかしインドのイスラム系人口の絶対数は1億4700万人で,インドネシア(1億9400万人)に次いで世界第2位であり,パキスタンやバングラデシュよりも多いという事実も,無視できないであろう.
 また,いずれの視点による場合でも,地域スケールが問題となる.たとえば,もしブラジル・オーストラリア・インド・アメリカ・中国などを州別・省別のような地域に分けると,国別順位や世界合計に占めるシェアのような絶対量的な数値は無論のこと,その地域での部門別構成比のような相対量的数値もかなり異なるものになるだろう.さらに,たとえばブラジルのコーヒー豆やオーストラリアの羊毛の生産地域・農場にとっては,国全体としての世界の順位・シェアや部門別構成比の大小よりも,それぞれの地域・農場にとっての経済的状況の方が重要であり,そのことが地誌的記述の対象になるべきであると考えることもできる.このように,地誌が,国レベルや州・県レベルなど,さまざまなスケールでの地域の実態を理解することによってその地域の政策的方向を考えることに寄与すべきであるとの視点からは,それぞれの地域スケールでの相対量的視点を基本としながら,必要に応じて絶対量的視点を加味していくことになるであろう.そして,いずれにしても,そのような数量的情報が地誌的記述にいかなる意味で役立つかを,十分に考えるべきであろう.

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  • 投稿日:2009年03月16日