- 日本地理学会
- » 研究グループ
- » 2018年度研究グループ活動報告
- » (28)地理学的地すべり論研究グループ
(28)地理学的地すべり論研究グループ - 日本地理学会
- 活動報告:地理学的地すべり論研究グループ
代表者 松四 雄騎
本年度は、西日本豪雨や北海道胆振東部地震などによって多くの地すべり災害が発生した。地理学的地すべり論研究グループでは、個別に現地調査を行い、現象の地理学的側面について検討を行った。2018年7月の豪雨で発災した四国宇和島における調査では、明瞭な風化前線をもつ砂岩での深い岩盤崩壊が発生しており、地すべりの様式に地質的な影響があった。一方、果樹園の成立している斜面では、樹木根系の補強効果が小さいことによって薄い表層崩壊が多発するなど、土地利用の影響も認められた。広島地方では、過去数十年間にわたる度重なる豪雨災害に発生にも関わらず、山麓沖積錐上に開発された宅地が被災するという典型パターンが繰り返され、土地の成立過程に関する知識と防災リテラシーの獲得による地域レジリエンスの向上が、喫緊の課題であることが再認識された。2018年9月の胆振東部地震で発災した北海道厚真町では、支笏カルデラ形成以降に堆積した恵庭山や樽前山を起源とするテフラが崩壊しており、斜面に存在する崩壊予備物質を、地域の地史復元に基づいて予め推定しておくことの重要性が明らかとなった。また、集落の成立過程において、低地の平坦部を耕作地として使用するため、居住の場として、水害リスクは相対的に低いものの斜面災害リスクが大きい山麓が選択されたという経緯も、人的被害拡大の要因となっていた。地すべり災害におけるこうした時空間スケールの異なる要因を整理し、斜面システムの統合的な理解に基づいて起きうる現象を想定することは地理学の担うべき役割である。今後、より多くの具体的なケーススタディーを通じて一般化を進め、地理的な知見に立脚した社会実装可能な方策の提案により、地域減災への貢献を目指したい。
研究グループ2018年度活動報告トップに戻る