地理学評論 Vol. 98, No. 6 2025年 11月 - 日本地理学会

●――論 説
特定地域づくり事業協同組合による労働力確保のメカニズム
 ──長崎県五島市を事例に── 甲斐智大・339‒362
川幅と流域面積の関係に係る要因分析 南雲直子・江頭進治・久保純子・363-377

 

●――短 報
日本における冬季気温変動の地域性を規定するテレコネクション
 坂本玲奈・ドアン グアン ヴァン・井上知栄・植田宏昭 378-393

 

●――書 評
池田千恵子:歴史的建造物の再生とツーリズムジェントリフィケーション(松本穂高)・394-395

谷口真人編:包摂と正義の地球環境学(山下 潤)・396-397

J. アッシュ・R. キッチン・A. レシュチンスキ編著,田中雅大監訳,二村太郎・桐村 喬・小泉 諒訳:
 デジタル・ジオグラフィーズ──変容する空間,地理学の変容(瀬戸寿一)・398-399

真木太一:日本の局地風百科(松山 洋)・400-401

原田宗彦:アクティブシティ戦略──暮らしているだけで健康になるまちづくり(香川貴志)・402-403

 

学会消息・404-405
会  告・表紙2, 3および406-413
 2026年日本地理学会春季学術大会のお知らせ(第2報)・406-407

論説

特定地域づくり事業協同組合による労働力確保のメカニズム──長崎県五島市を事例に──

甲斐智大
大分大学

近年の地方創生施策では行政以外の地縁組織の果たす役割が拡大している.そうした中,2020年6月に人口急減地域での労働力不足解消などを目指す特定地域づくり事業協同組合制度が制定された.本研究では非市場的な側面を併せもつ行政以外の地縁組織が中核となり運用される当該制度に焦点を当て,組織の設立プロセスと,そこからの労働者派遣の特徴について考察した.これにより,当該組織が季節ごとの労働力需給のミスマッチを埋め合わせる機能や不足するケア労働力の供給機能,中小企業と移住者のマッチングを図る機能などを有していることを指摘した.さらに,当該組織の成立には①組合運営の委託先となり得る事業所や②社会貢献(運営貢献/出資)型企業となり得る企業の存在,③生活環境の良さを前提とした安定的なマルチワーカーの確保,④マルチワーカーの「卒業」後の就業先を確保し,労働力の流動性を高めることが必要となることが明らかとなった.

キーワード:特定地域づくり事業協同組合,地域労働市場,労働者派遣,地元企業,五島市

(地理学評論 98-6 339-362 2025)

 

論説

川幅と流域面積の関係に係る要因分析

南雲直子・江頭進治・久保純子**
国立研究開発法人土木研究所,**早稲田大学

川幅の形成は,一般にレジーム則などの経験則に基づいて説明されている.本稿はレジームの概念を念頭に,日本,台湾,東南アジアの28河川における川幅と流域面積の関係を調べた.そして,流域の降雨特性,土砂流出特性,河口水位変動に着目し,川幅に及ぼすこれらの影響を考察した.その結果,川幅と流域面積の関係には地域特有の条件が影響を及ぼしており,雨域と流域の広さが同程度で,土砂流出が活発な河川では広い川幅が形成されていることが分かった.一方,顕著な河口水位変動がある河川のうち,トンレサップ湖に流入するセン川の川幅形成を考察したところ,湖水位の上昇に伴って生じる年周期の堰上げ氾濫によって,河口域では非常に狭い川幅が形成されていることが分かった.さらに,潮汐運動による日周期の河口水位変動が大きい河川では,満潮時の堰上げと干潮時の低下背水への応答の過程で流れの土砂輸送能力が増し,川幅拡大方向に作用することを確認した.

キーワード:レジーム則,川幅,流域面積,土砂輸送能力,潮汐運動,湖水位変動

(地理学評論 98-6 363-377 2025)

 

短報

日本における冬季気温変動の地域性を規定するテレコネクション

坂本玲奈・ドアン グアン ヴァン**・井上知栄**・植田宏昭**
筑波大学大学院生**筑波大学

冬季における日本の気温変動の地域特性とその要因を明らかにするため,非階層的クラスタリング手法を用いて日本を5地域に区分し,各地域の気温変動と熱帯海面水温変動および中高緯度テレコネクションパターンの関連を調査した.その結果,各テレコネクションは異なる地域の気温変動に寄与し,その影響には地域性があることが明らかになった.その中で,対流圏中上層に卓越するSoutheast Asia–Japan(SAJ)パターンは全地域の気温変動と高い相関が確認された.これまで日本の暖冬は,エルニーニョ現象に伴うフィリピン東方海上の高気圧性循環偏差による暖気移流が要因として知られていたが,本研究は,海洋大陸付近の対流抑制に伴うSAJパターンが主要な要因であることを明らかにした.寒冬時は,ラニーニャ現象に関係した海洋大陸付近の対流活発化に伴う逆符号のSAJパターンによって,北西季節風が強化されることが示された.

キーワード:日本,冬季気温変動,テレコネクション,熱帯海面水温,SAJパターン

(地理学評論 98-6 378-393 2025)