地理学評論 Vol. 86, No. 6 2013 年 11 月

●―短 報

北上低地西縁断層帯・上平断層群南端付近の断層変位地形と断層露頭 小坂英輝・楮原京子・今泉俊文・三輪敦志・阿部恒平・493504

1822 年の有珠山噴火によるアイヌの被災状況――死亡者数の確定と生存の要因に関する考察―― 遠藤匡俊・土井宣夫・505521

服部銈二郎先生のご逝去を悼む・522523

学界消息・524525

会  告・表紙2 および 526528

2014 年春季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2

 

 

短報

北上低地西縁断層帯・上平断層群南端付近の断層変位地形と断層露頭

小坂英輝*・楮原京子**・今泉俊文***・三輪敦志****・阿部恒平****
*株式会社環境地質,**山口大学教育学部,***東北大学大学院理学研究科,****応用地質株式会社

本論では,平野側に大きく湾曲する形状をもつ逆断層のセグメンテーションを検討するために,北上低地西縁断層帯・上平断層群南端部に発見されていた断層露頭を精査した.また,断層露頭周辺の断層変位地形の記載をあわせて行い,断層活動履歴,平均上下変位速度および単位実変位量を求めた.断層露頭の断層は,新第三系の凝灰岩が段丘堆積物に対して48°以上の高角度で衝上する構造をもち,右横ずれ変位を伴う逆断層である.その断層活動は最終氷期後期以降に少なくとも4回,平均上下変位速度は0.3±0.1m/千年程度,単位実変位量は2.4~3.4mと推定される.これらの諸元は上平断層群中央部のそれらと同等であり,上平断層群南端は断層セグメントにおいて活動度が低くなるとされる断層末端の特徴を有しない.すなわち,湾曲という断層の平面形態は必ずしも断層セグメントの認定基準にならないことを示唆している.

キーワード:北上低地西縁断層帯,逆断層,断層セグメント,断層活動履歴,平均上下変位速度,単位実変位量

(地理学評論 86-6 493-504 2013)

 

1822年の有珠山噴火によるアイヌの被災状況―死亡者数の確定と生存の要因に関する考察―

遠藤匡俊*・土井宣夫**
*岩手大学教育学部人文地理学研究室,**岩手大学教育学部自然地理学研究室

1822(文政5)年の有珠山噴火の火砕流・火砕サージにより南麓のアブタ集落が被災したが,死亡者数は明確ではなかった.本研究では,史料を用いて災害の発生過程および被災状況の詳細を復元することで,アイヌの死亡者数を確定し,アブタ集落のアイヌの居住者数と災害時の滞在者数を明らかにした.滞在者数に対する死亡率は非常に高く,火砕流・火砕サージに遭遇した際には生存の可能性が低いことを示した.一方,居住者数に対する死亡率は低かった.当時のアブタ集落は和人の社会経済活動に深く組み込まれた強制部落(強制コタン)として知られてきたが,10月から翌年3月ころにかけて行われていた季節的移動は主体的・自律的な行動であった可能性が高い.被災を免れたのは,多くのアイヌの人々が自らの食糧となるサケ(鮭)を漁獲するためにシリベツ川上流域へ季節的移動をしており不在であったことが一因という解釈を提示した.

キーワード:1822年有珠山噴火,火砕流・火砕サージ,死亡者数,アイヌ,季節的移動

(地理学評論 86-5 505-521 2013)