●――論 説
超郊外における管理的職業を中心とするテレワーク就業世帯による移住とその意味
──長野県軽井沢町およびその隣接地域の調査から── 綱川雄大・103-128
●――短 報
東日本大震災における避難者数の時間的・空間的変動
──データサイエンス手法による全国避難者数の解析──
藏田典子・伊勢武史・129-145
津軽平野中部における完新世の堆積環境の変化と地形変遷
小野映介・小岩直人・柴 正敏・髙橋未央・佐藤善輝・146-161
現役世代のライフステージからみた超郊外への居住地移動
──長野県御代田町を事例に── 本多一貴・162-177
●――書 評
安成哲三:モンスーンの世界
──日本,アジア,地球の風土の未来可能性(松本 淳)・178-179
伊藤徹哉:転換期におけるヨーロッパの都市再生
──持続可能な都市空間(松山 洋)・180-181
原 隆一・南里浩子編:大野盛雄 フィールドワークの軌跡I
──50年の研究成果と背景.
原 隆一・南里浩子編:大野盛雄 フィールドワークの軌跡II
──1960年代~1970年代のイランとアフガニスタン農村調査から
原 隆一・南里浩子編:大野盛雄 フィールドワークの軌跡III
──イラン革命のフィールドワーク1975~1987年
原 隆一・南里浩子編:大野盛雄 フィールドワークの軌跡IV
──乾燥地域の「米の道」稲作から米の料理まで1988~1993年
原 隆一・南里浩子編:大野盛雄 フィールドワークの軌跡V
──トルコ・アナトリア高原の地方町カマン日誌1992~2000年(溝口常俊)・182-183
式 正英先生のご逝去を悼む・184-185
学界消息・186-187
会 告・表紙2 および188-194
2025年日本地理学会秋季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2, および188-189
超郊外における管理的職業を中心とするテレワーク就業世帯による移住とその意味──長野県軽井沢町およびその隣接地域の調査から──
綱川雄大
明治大学大学院生
本稿では,長野県軽井沢町を超郊外と位置づけ,そこと隣接地域へ移り住む世帯の移住がどのような意味を有するものであるかを考察し,ライフスタイル移住概念に関連した既往研究が描出してきた移住の特徴を相対化した.調査世帯は,キャリアや子育て方針,住居選好などを移住動機としている.女性配偶者の移住経験の知見からは,今後の人口移動研究において世帯の意思決定に関わる主体的な存在として注目する必要性が指摘できる.テレワーク就業による1日の生活時間を見ると,規則的な時間に就業を開始し,一定時間以上の仕事を行う点で,移住以前の東京大都市圏で送っていた働き方と大差がない.本稿の調査世帯は,既往研究が描き出したようなダウンシフトな生き方を志向して移住を行ったとはみなせない.むしろ生活の質の向上のみならず,仕事の質を維持・向上させることをも目的としており,軽井沢町への移住はそれらを同時に達成する手段とみなせる.
キーワード:超郊外,東京大都市圏,ライフスタイル移住,テレワーク,軽井沢町
(地理学評論 98-3 103-128 2025)
東日本大震災における避難者数の時間的・空間的変動──データサイエンス手法による全国避難者数の解析──
藏田典子*・伊勢武史**
*山口県立大学,**京都大学
東日本大震災による広域避難者数を整理している復興庁の「全国の避難者の数」には,フォーマットの不統一などの問題があり,総合的なデータ解析には使用されてこなかった.本稿では,データスクレイピング技術により全データを効率的に取得し,47都道府県の10年以上に及ぶ避難者数の変動の解析を行った.まず記述統計をもとに避難者数の全国的な動向を把握した後,時系列クラスタリングで,避難者数の変動が類似する都道府県を類別し,それぞれの傾向について議論した.また,スパースモデリングを用いて避難恒常化率の都道府県間の差を説明する要因を探り,特に第二次産業が盛んで土地生産性が高く物価の低い場所に避難者が定着しやすいという示唆を得た.加えて,変化点分析で避難者動態に変化が生じたタイミングを検出した.このように,データサイエンス手法の活用は,全国の避難者数の変動を明らかにすることが可能であり,今後の避難者支援や防災などへの応用が期待される.
キーワード:東日本大震災,避難者数の変動,データサイエンス,時系列クラスタリング,スパースモデリング
(地理学評論 98-3 129-145 2025)
津軽平野中部における完新世の堆積環境の変化と地形変遷
小野映介*・小岩直人**・柴 正敏***・髙橋未央****・佐藤善輝****
*駒澤大学文学部,**弘前大学教育学部,***弘前大学名誉教授,****弘前学院大学社会福祉学部,*****産業技術総合研究所地質調査総合センター
津軽平野中部におけるボーリングコアの解析をもとに完新世の堆積環境の変化を検討した.その結果,泥層・砂層・軽石層の堆積を繰り返しながら上方累重したことが確認された.また,完新世を通じてつねに複数起源の火山噴出物を包含する堆積物の供給される状況にあったことが示唆される.堆積物に含まれる火山ガラスは,鮮新世・更新世に形成された八甲田カルデラなどと,更新世後期以降の十和田火山の噴火によって生じたものである.加えて,岩木川水系およびその周辺における火山噴火後の過剰物質供給時と収束した後の平常時という堆積環境の変化が平野の地形発達にどのような影響を及ぼしたのかを考察した.上位沖積面に分布する自然堤防群の大半は,十和田火山AD915噴火後の過剰物質供給時に形成された可能性がある.氾濫原における上位沖積面と下位面の分化は,同噴火後の過剰物質供給の収束に応答して,河川の下刻が生じたことに起因すると考えられる.
キーワード:津軽平野,岩木川,十和田火山,完新世,火山噴出物
(地理学評論 98-3 146-161 2025)
現役世代のライフステージからみた超郊外への居住地移動──長野県御代田町を事例に──
本多一貴
立正大学大学院生
本稿は長野県御代田町を事例に,現役世代による超郊外への居住地移動を,労働形態,居住形態,他者とのつながりという三つの要素について個人のライフステージに着目して分析し,転入者がどのように御代田町への移動を決定し,その後どのように生活の基盤を整えてきたのかを明らかにした.転入者は,理想的なライフスタイルや教育・労働環境を求めて大都市圏から転出しており,御代田町は近隣自治体と比べて,地価や気候条件,転入者間の交流などが高く評価され,移動先として選択されていた.また,生活の基盤を整える過程で三つの要素は相互に関わり合い,住居の選択や自治会への加入などで転入者に制約を与えるものの,彼ら/彼女らは前住地である大都市圏と同様の,性別による世帯内役割分業によってこれらの制約に対応していた.超郊外での生活は,従来の研究で示されてきた大都市圏郊外での性別による世帯内役割分業と共通していた.
キーワード:超郊外,居住地移動,労働形態,居住形態,御代田町
(地理学評論 98-3 162-177 2025)