下記の通り会長講演を行いますので多数御参加下さい.
1.日 時 3月26日(木)17時~17時40分
2.場 所 第2会場
井田 仁康(筑波大・名誉):高等学校「地理総合」の必履修化の経緯と日本地理学会
高等学校での地理の必履修化は,地理関係者にとって長年の願望であった.1960年告示の学習指導要
領により,高等学校では「地理A」(3単位)「地理B」(4単位)のどちらかを普通科高校では履修するこ
とになり、完全ではないが必履修となった.70年告示の学習指導要領では「地理A(系統地理)」「地理
B(地誌)」の2科目が設置され,1970年代前半には必履修科目ではなくなったが,ほとんどの高校生が
地理を履修していた.地理の履修者が激減するのは,1978年告示の学習指導要領の実施からで「現代社
会」が必履修科目になった時からである.1989年の学習指導要領では高等学校の社会科が解体され,地
理は地理歴史科の科目となり,世界史が必履修化となり,地理の履修者はさらに減少し,高等学校の社
会科系科目のなかで,教科書需要数は「地理B」が最も少なく,「地理A」でも下から3番目となってい
った.2000年頃には高等学校の地理教員からは地理の衰退が指摘され,危機感がもたれていた.
こうした中で,関西の地理学者から高等学校地理の必履修化に向けてのロビー活動の準備が始まり,
日本地理学会においても地理教育専門委員会がロビー活動を行い,2008年には神奈川県や東京都の教育
委員会に,日本史必履修のみならず,地理の必履修も検討するよう要望した.日本学術会議においても
2007年から2011年に日本史,世界史,地理,人類学,教育学,心理学の研究者からなる高校地理歴史科
教育に関する分科会が設置された.2008年には碓井照子氏を委員長とする地理教育分科会が設置され,
「地理基礎」が審議され,高校地理歴史科教育に関する分科会による地理歴史科の必履修科目として
「地理基礎」「歴史基礎」が提案される,提言「新しい高校地理・歴史教育の創造――グローバル化に対
応した時空間認識の育成――」が2011年に発出された.
このように2005年頃以降から,地理関係者がもついくつかのチャンネルを通して,地理必履修化に向
けアプローチが行われていた.特に,2010年以降は,2011年に学術会議からの提言がなされたこともあ
り,文部科学省の大臣や副大臣との面談により,高等学校地理の必履修化と地理オリンピックの科学オ
リンピックとしての正規の加入をも併せて,現実化に近づいていった.こうした新科目の設立には実証
的な証拠が必要とされ,2010年からは研究開発校によりカリキュラムが開発され,その有効性が実施さ
れた.研究開発校は負担が大きいので研究開発校に応募してくれる学校は少ないが,これについても多
くの地理学者や高校の教員が尽力していただき,2010年から2013年までに3校のメインとなる研究開発
校が指定され,実績をあげていった.さらには,2014年以降は歴史関係者と日本地理学会会長を含めた
地理関係者が合同で文部科学省を訪問し,担当課長などと具体的な話し合いももたれるようになった.
地理と歴史の双方が,高等学校の地理および歴史の必履修化を望んでいることを文部科学省が確認でき
たことにより,地理の必履修化が大きく推進されたといえる.
こうして多くの地理学者や地理教育関係者が,陽になり陰になり尽力してくれたおかげで,2018年告
示の学習指導要領(2022年から実施)で高等学校での「地理総合」の必履修化にいたった.告示前まで
多くの社会科関係者は,高等学校における地理の必履修化は夢物語として実現は難しいとみていたが,
地理関係者の団結力により高等学校での地理の必履修化が実現した.日本地理学会などを核とした地理
関係者の絆が強く,協調性があることが高等学校の地理の必履修化で証明されたといえよう.日本の地
理学関係者の団結力は,世界に誇れるものではないだろうか.日本の地理関係者の絆の強さは,地理学
の研究の推進にも反映され,これからの日本および世界の持続可能な社会,未来の地球に大きく貢献で
きるのではないだろうか.