2025年秋季学術大会 高校生ポスターセッション(オンライン)発表タイトルおよび要旨

発表番号,発表タイトル,発表者(学校名),発表要旨

01 買い物支援サービスとしての買い物バスにおける時間地理学モデルの社会的事業化に向けた拡張と検証 ~多様な主体との対話を通して見えてきたものとは~

 鳴海ジロー(千葉県立千葉高等学校)

千葉市緑区土気町を実地域として考察した時間地理学的視点に基づく買い物バス導入モデルの地域拡張の可能性を検討した。具体的には、行政、民間事業者、地域住民との対話を通じた実態把握、同時進行でPythonによる時間地理学モデルの一般化とバスモデル適用可能地域を定義してシミュレーションを実施。バス停間距離や乗車人数の変化に応じた適用地域条件を推定し、人口・面積に基づく適用最適地域を導出した。さらに、様々な主体との対話や、シミュレーションで、時間地理学的モデルの現実的な適用可能性のある買い物困難地域の定義を改めて行い、GISによって千葉市以外の買い物困難地域を視覚化、その地域に実際にモデルの現実的適用を検証した。多様な主体との協働と空間的分析を融合した本研究は、買い物支援の新たな地域モデル構築に資するものとなりうる。

 

02 「桃生茶」による地域振興

 伊賀心咲・柴田倫花(宮城県仙台西高等学校)

「桃生茶」は約400年前、伊達政宗公による殖産復興を目的として茶の栽培が奨励されたことによって今日まで栽培が続けられてきた。ふくよかな香りと苦みの少ないまろやかな味わいが特徴だ。この「桃生茶」による地域振興について、桃生茶を販売する宮城県石巻市のお茶のあさひ園と、塩釜市の(株)矢部園茶舗に協力いただき、インタビューを行った。曰く、段々と衰退しつつあった茶の製造と共に宮城県の復興を目指し製造や販売を深めたという。その中でも和紅茶は、2017年に東日本大震災による地域的復興を願って、まろやかな味わいが特徴的なお茶として作られ、煎茶や玄米茶と共に注目を集めるようになったことがわかった。以上のことから、「桃生茶」は、その産地である石巻市や塩釜市だけでなく、宮城県全体の復興や活性化を目的として製造・販売がより増えていったのだと思われる。

 

03 都市化が巻き起こす神戸の気温上昇

 岩本飛翔(兵庫県立西宮香風高等学校)

近年、自分が住んでいる西宮市で夏の暑さが増していると感じたことから、気温上昇の原因に関心を持ち、本研究では近隣の神戸市を対象に調査を行った。気象庁のデータを用い、1897年から2024年までの7月の平均気温を調べたところ、1950年ごろを境に急激に上昇していることが明らかになった。また、国土地理院の地図や航空写真を用いて、神戸市の都市化の進行状況を比較した。その結果、気温上昇は地球温暖化の影響以上に都市化と関連している可能性があると考えられた。特に建物の密集や緑地の減少、人工的な地表面の増加が、ヒートアイランド現象を引き起こしていると推測される。今後は西宮市における都市構造との比較や、気温上昇の対策についても検討していきたい。

 

04 気象データを基にした季節区分の最適化 ~二十四節気と現在の気候を比較して~

 白石楓(東京学芸大学附属国際中等教育学校)

本研究の目的は二十四節気の妥当性を確かめ、対象とする東京都練馬区に適した季節区分を考案した上で、季節変化と気候変動との関係性を明らかにし、環境への理解を深めることである。二十四節気とは古代中国で生まれ、日本でも古くから使用されている暦の一つであり、太陽暦を基に1年を24等分して、それぞれの期間に名称をつけたものである。今回は二十四節気と、気象庁が収集した過去の気象データを用いて作成した新たな季節区分を比較し、さらに新たな季節区分の妥当性を補うものとして、毎日の決まった時刻に撮影した空の様子や植物の状態を写した写真を加えることで、季節の歴史的な遷移の可視化を試みた。結果として、気象庁のデータを基にした新たな季節区分を作成し、それぞれの期間に独自の名称をつけて提案することができた。この成果を活用すれば、本研究の対象地域だけでなく、他地域でも季節の歴史的な変化を考察できると考えている。

 

05 岐阜市長良川の水難事故多発地点における河床構造の解析

 森啓恭・坂口日南・大坪つばさ・金森良太郎・藤井悠貴・李炫進・森麻亜子(大垣北高校)

岐阜県を流れる長良川は水難事故の多い河川であり、全国の水難事故件数では琵琶湖に次いで2位、岐阜県の水難事故の約4割を占めている。水難事故多発地点の河床構造を明らかにし、その情報を公開することで、水難事故の発生を減らすことができると考え研究を始めた。今回は岐阜市内の、特に多くの人が訪れる長良橋周辺と千鳥橋周辺で調査を行った。各地点の水深を測定し、等深線を引いて、水深の変化を視覚的に確認できる地図を作成した。また、河床の石の粒径や歩き心地なども調査をした。結果、長良橋周辺の長良川の河床構造は、川幅の4割程度までの水深は1.0m未満と浅いが、その場所以降右岸側に向かって急に深くなっていることが分かった。千鳥橋周辺の長良川の河床構造は、水深の浅い場所と深い場所が極端に分かれていた。作成した地図等は、岐阜市消防本部に情報提供をし、今後の水難事故防止に役立てるための情報交換を行った。

 

06 「地方都市郊外住宅地における土地分割と建売住宅の増加~仙台市泉区南光台地区を事例に~」

 佐々木舞(仙台東高校)

東日本大震災後の地方都市郊外住宅地の土地再生を今後また同様の状況に直面した際の資料として残すことを目的とする。仙台市泉区南光台地区の震災被害を受けた住宅地を対象とし、2010~2025年までの住宅地図や、フィールドワークから考え得ることをまとめた。結果として、空き地が増え、その空き地が土地分割され建売住宅が増加していることが分かった。ここから同地区では地方都市郊外住宅地へ都心回帰してくる若者が増えた、または今後増えると考えられる。また、この土地利用の方法から震災被害があった地域のみではなく、高齢化や空き地が増えた郊外住宅地でも、この土地利用を推進することで地域活性化が実現できる。その一方で、地形的なものを無視してタウンを作り、自然災害にあってしまう社会都市問題も増加してしまう可能性があると考えられる。震災から復興しつつある同地区だからこそ研究しがいがあると考えられる。


07 東松島ののどかな景観の継承 〜科学的・人文的両面からのアプローチで、被災地の魅力を伝え、住民の思いをつなげる〜

 堀米咲希(宮城県仙台二華高等学校)

東松島市野蒜海岸では、バギーの乗り入れやポイ捨てなどの環境問題に加え、震災後の人口減少により、景観保全が困難になりつつある。そこで本研究では、海岸植物の役割を明らかにし、保全意識を高めることを目的として、野蒜海岸の草本と松の木を対象に植生調査を行った。結果をもとにパンフレットも作成する。トランセクト法による植生の分布調査では、植生がある地点は標高が高く、ない地点は低いという傾向があった。掘削による地下部観察では、植物が根や幹を砂に絡ませることで固い砂山を形成していた。これらの結果から、海岸植物は津波や高潮を防ぐ自然の堤防として機能していると考えられる。さらに、地域の魅力を伝えるため、住民インタビューや校内アンケートをもとに、観光・防災情報を盛り込んだパンフレットを制作中である。以上のような調査と発信を通して、海岸保全への関心を広げることを目指す。

 

08 土砂災害と土壌の関係性

 鐙祐太・松橋優奈(秋田高校)

秋田高等学校は土砂災害警戒区域に指定されており、大雨が発生した際に土砂災害のリスクが高いことが明らかとなっている。秋田市にはこの他にも土砂災害警戒区域に指定されている地域が多くあり、中には実際にここ数年で発生している地域もある。このことから、それらの地域のうち3箇所程度をサンプルとして土壌を構成している物質を分析し、土砂災害の起こりやすい土壌の特徴を見出そうと考えている。実際に採取を進めてみると、土壌に粘土が多く含まれていることがわかり、これが土砂災害のリスクの高い地域の共通点ではないかと考える。これからは引き続き相違点を研究しながら、土砂災害への対策についても考察していきたいと考えている。そして土砂災害は土壌の性質だけではなく、その地域の傾斜やその時の含水率も関わってくるので、そのような点も組み入れながらより効果的な土砂災害の対策を考察していく。

 

09 京都市北部・鞍馬山山麓における風倒木の分布特性と斜面崩壊リスク

 松井 信乃輔・落合 華蓮・ピコ 優奈・古川 愛友菜・岡部 桃花・山内 橙・アチャーリャ アシカ・下伊豆 奏向・中村 美釉(北稜高校)

本研究は、2018年9月4日に近畿地方を襲った台風21号により、京都市北部・鞍馬山山麓で発生した根返り風倒木が斜面崩壊リスクに与える影響を明らかにする。2020年より京都先端科学大学と共同でドローン調査を行った結果、根返り風倒木は谷筋斜面に、幹折れ風倒木は尾根部分に多く分布する傾向が確認できた。2020年7月8日未明の豪雨により、数か所の谷筋斜面おいて根返り風倒木が流出する土石流が発生した。この地形的条件と風倒木による土壌撹乱が降雨時の雨水浸透を促進し、斜面崩壊を誘発する可能性があると仮定した。現地調査の結果、根株は1m以浅に発達し、土石流発生後の画像等を確認すると谷筋には同程度の深さの侵食谷が形成されていた。これを踏まえ、風倒木発生斜面における1m以浅の表層土壌の硬度および透水性を測定した結果、硬度が低く透水性が高い傾向が認められ、通常斜面に比べ斜面崩壊リスクが高まることが考察できた。

 

10 地域の繋がりを活かした地域活性化と災害対策に向けての提案:長野県下諏訪町を事例に

 本城那都・野末悠那(お茶の水女子大学附属高等学校)

本研究は下諏訪町の関係人口創出と減災に向けた提案を目的とする。フィールドワークに加え、ハザードマップ、地理院地図、統計データを分析することで、次の点が明らかになった。下諏訪町は人口減少と高齢化が進行しており、高齢者の割合は全国平均を大きく上回る。また、災害リスクも深刻で、山に囲まれた地形が災害時の救助を困難にし、洪水時に水没するリスクのある地域に避難所が多く分布する。転出者が転入者を上回る状況であり、インタビュー調査から転入者は「人の温かさ」を魅力に感じている一方、転出者は周辺市町村の「生活の利便性」を求めている。これらの課題を解決し、若い世代を増やすために、地域の人々の繋がりを活かした災害時の情報共有システムの構築や避難所を目的別に細分化、地域の祭り等イベントで外部からの来訪者が増加する時期に、地域での生活や住民との交流を体験できる機会を増やすことを提案する。

 

11 多文化共生地域における防災体制の検討 ―いちょう団地を事例として ―

 ・阿南慎司・佐藤まい・庄野主真(柏木学園高校)

私たちの通う高校がある大和市には「いちょう団地」という“多国籍団地“がある。この研究を通して、様々な国籍の人々が暮らす地域における防災体制の現状と課題を明らかにし、多文化共生地域としての防災の在り方を考察する。昨今の自然災害の多さから、災害発生時に外国人住民の比率が高い「いちょう団地」は、言語や文化の違いが防災の課題となることが予想される。大和市および横浜市にまたがる団地周辺を対象とし、Googleマップによる地図作成、本校在学生の住民等への聞き取りを行った。また、防災施設の有無、多言語表示の看板設置状況、避難所の環境等を現地調査した。その結果、防災対応が日本語中心であること、防災訓練への外国人の認知が低いこと、避難所の文化的配慮が不十分であることなどが明らかになった。これらの課題に対して、多様な文化を持つ住民が安心して避難・協力できる体制の構築のために、防災の充実が必要であると考える。

 

12 GPSアートを用いたまち探検アプリの開発とその実践

 石塚勇汰・猪俣慶弥・加藤蓮也・砂田夏帆・山口優太(柏の葉高校)

小学校学習指導要領・社会(平成29年告示)には、第3学年の内容に「身近な地域や自分たちの市の様子を大まかに理解すること」が記され、調査活動などを通して情報を調べまとめる技能を身に付ける目標が掲げられている。一方、日本学術会議・地理教育分科会による見解(2023)によると、今次の改訂において、第3学年の身近な地域での直接観察、調査の実施が明記されず、野外における直接体験の場が喪失あるいは大幅に簡略されてしまっている実態が指摘されている。そこで、いわゆるGPS機能を用いて移動した軌跡を地図上に記録し絵や文字を描く「GPSアート」を用いた小学生向けの教育を提案する。直接観察・調査の機会の提供や地図読解力の向上、加えて町に対する新たな発見による地域理解に繋がると考える。

本発表にあたり、小学生3名を対象に試行した。この成果を踏まえ、発達段階に応じた地域理解につながる実践を情報科の側面から伝えたい。

 

13 白河市中心部の災害に関する調査〜災害伝承の現状の解明に向けて〜

 塚野颯美(福島県立白河高等学校)

福島県白河市中心部は、1998年の豪雨災害や、2011年の東日本大震災での地すべりなど、ここ2・30年で大きな災害を二度経験している。市中心部ではこれまでにどのような災害があったのかを明らかにすること、市中心部での災害伝承のを目的に、白河市が出版する市史や気象記録などの調査を実施した。結果、記録が残る江戸時代以降、火災による被害が突出して多く、水害はたびたび発生していた。地震の記録は見つけることが出来なかった。特に被害が大きかった火災は、北西からの季節風によって被害が拡大、「大火」となっていた。調査より、白河では昔から多く火災を経験していて、水害や地震への意識は低かったという考察に至った。今回の調査結果から、大火が起きなくなった現代、近年経験した水害・地震が白河の災害伝承において重要な教訓となると考えられる。

 

14 「ブラックホール型自治体」と呼ばれる千葉県浦安市の現状

 兼吉舞衣(市川高等学校)

千葉県浦安市は人口全体は増加しているが、死亡数から出生数を引いた値は大きく減少している「ブラックホール型自治体」と呼ばれている。令和2年(2020年)の合計特殊出生率は0.86と低く、年々減少している。原因として、東京に近く利便性が高いにもかかわらず、子育て世帯から注目されていないからだと考えられる。そこで、東京駅から半径15km圏内にある他の「ブラックホール型自治体」と比較を行った。また、死亡数から出生数を引いた値が大きく減少していない「自立持続可能性自治体」とも比較し、浦安市の持続可能性を考察する。

 

15 カンボジア農村社会における貧困問題~地域特性と産業の観点からの分析~

 尾上大和(宮城県仙台二華高等学校)

本研究ではカンボジア農村社会の貧困問題の実態解明のため、シェムリアップ州アンコールクラウ村周辺31軒と同州トンレサップ湖北部の水上集落チョンクニアス18軒でのインタビュー調査を行い、生活状況や職業、収入等について聞き取りを行った。アンコールクラウ村周辺では住民の多くが農業か建設業に携わっている。また、この建設業の多くは日雇いであり、給料の未払いなども散見された。一方、チョンクニアスでは水上に集落が位置するという条件からほとんどの住民が漁業に従事している。アンコールクラウ村周辺での農業にも共通して、家族単位での零細な第一次産業従事者が多く見られている。また、どちらの地域にも共通して、第三次産業者があまり見られず、地域単位での産業の発展が停滞しているといえる。これらのことからカンボジア農村社会では収入が安定しない、生業となる職業の多くが零細なものである点から貧困が根強く残っていると考えられる。

 

16 市川学園の避難経路は適切かーセルオートマトンを用いた考察ー

 岡部美月(市川高等学校)

市川学園の避難経路は本当に最も効率のよいものになっているのだろうか。学校の避難経路を再検討する研究はSSH課題研究などで日本のさまざまな高校で行われており、各学校において避難経路における交通量の偏りや渋滞ができやすい箇所などが指摘されてきた。その主な手法がセルオートマトンを用いたシミュレーションである。そこで、これらの研究と同様の方法を用いることで、市川学園でも避難経路の課題点を発見しより良いルートを提案できるのではないかと考えた。

 

17 観光地鎌倉における津波避難の課題と対策

 伊田春佳(鎌倉女学院高等学校)

年間約1600万人の観光客が訪れる鎌倉は相模湾に面し、特に海岸沿いや河川沿いで津波リスクが高いため、観光地における避難体制の整備が課題となっている。本研究では、鎌倉駅周辺の小町通り、鶴岡八幡宮、由比ヶ浜周辺を対象に、鎌倉市の津波ハザードマップや防災情報マップを用いてリスクを確認し、現地調査で避難経路・避難場所の表示や多言語対応の有無を記録・分析した。さらに観光客の視点から、避難行動のしやすさや案内の分かりやすさを検証した。その結果、避難表示の不足や外国語対応の不十分さ、観光地特有の混雑が避難に影響する可能性が明らかになった。考察では、誰もが理解できるピクトグラムの導入、防災表示の視認性向上、多言語対応の充実、スマートフォンを活用した情報提供などの改善が必要だと考えた。

 

18 埼玉県和光市における医療機関の分布傾向とその要因

 川村苺子(東京学芸大学附属国際中等教育学校)

本研究の対象地域である埼玉県和光市は東京23区周辺部に位置し、近年、人口が増加傾向にある。増加する住民に対して円滑な医療体制の提供が求められる一方、市内の医療施設が立て続けに廃業となる状況もみられる。本研究では埼玉県和光市における医療機関の地域的な分布傾向および偏在が生じる要因を明らかにすることを目的とした。方法として、和光市内の医療機関の分布を地図化し、交通利便性など複数の視点から分析を行うとともに、フィールドワークを行うことで個別の事例について詳細な調査を実施した。研究を進めていく中で、和光市では医療機関の偏在性が高いことが明らかになってきた。特に診療所については、交通利便性によって分布に差が生じる傾向にあり、駅周辺部には多くの診療所が立地するのに対して、交通機関が限られた地域では数が限られてしまっている。このことから交通機関が医療アクセス格差を生む要因の一つとなることがわかった。

 

19 水害対策と歴史的景観の保全 -伊勢河崎を事例にして-

 坂本亘平(三重県立松阪高等学校)

近年、日本各地の河川において氾濫の危険度が高まっている。本研究は、河川周辺における水害対策と歴史的景観の保全の両立を実現するための方法を提案することを目的とする。三重県伊勢市河崎を対象地域とし、調査を行った。河崎は江戸時代に勢田川の水運を利用した問屋街として発展したが、1974年7月に発生した七夕豪雨をきっかけに護岸改修工事が行われ、右岸の町家が消滅した。現在は、左岸の河崎本通りを中心に町家の景観が保存されている。まず、工事が行われた当時の様子や現在の方針について、伊勢市役所および伊勢河崎商人館で聞き取り調査を行った。その結果、工事に対する反対運動の内容や、現在の河崎では町家と勢田川との一体性に配慮した景観保全が行われていることが明らかになった。続いて、三重河川国道事務所から、当時行われた工事の内容や、歴史的景観を保全しながら水害対策を講じる上での課題や方法について聞き取りを行った。

 

20 船内GPS及び撮影機能を有する水中ドローンを用いた静岡県浜名湖における海底モニタリング調査

 塩澤羚・⼭下智也・荻久保快知・⼭下耀⽣・⼩⻄裕⼤・今井智章(静岡聖光学院高等学校)

現在、静岡県浜名湖では海洋環境の変化でアマモ場が急激に現象し、特産品のアサリ漁獲量も激減している。そのため浜名漁協は、アサリの棲家であるアマモの再生に向けた活動を行っている。しかし、再生のためには海底環境の詳細な把握が必要である。そこで本研究は、藻場分布を鮮明に可視化し、定期的なモニタリングによって浜名湖全域の海底地図を作成し漁協に提供することを目的とした。空中写真の解析では水深が深い地点の様子が不明瞭であるため、海底撮影機能を有する船舶曳航型水中ドローンを開発した。得られた画像データと船舶のGPS情報を用いてオルソ画像を作成し、これらを繋ぎ合わせて海底地図を完成させた。結果として、海底環境を目視で推定する機構を確立できた。本研究で得られた情報は、今後の定期的調査による地形変化の把握、海洋生態系の理解、海底環境に伴う海流変化の調査に寄与できると考える。

 

21 歴史的景観を活用したまちづくりー伊勢河崎を事例にしてー

 前田真希(三重県立松阪高等学校)

伊勢河崎は勢田川の水運を生かした問屋街で、江戸時代から伊勢神宮の参宮客への物資を供給する「伊勢の台所」として栄えた。当時は川の両岸の通り沿いに切妻屋根が続き、直接船から物資を蔵に入れることができた。現在も左岸の景観は、往時の雰囲気をよくとどめている。1979年に「伊勢河崎の歴史と文化を育てる会」が結成され、河崎の歴史や文化の継承、町並みの保存活動が行われている。同時に蔵を使った寄席など歴史を活かした取り組みを展開し、古い町家を活用して残していくまちづくりが行われている。その一例として、2025年に「NIPPONIA HOTEL伊勢河崎商人町」が、河崎の歴史的な景観全体を活用した分散型ホテルとして開業した。インバウンドの過熱による観光公害も見られる中、このような多くの人を呼び込むのではなく、地域に寄り添った河崎のまちづくりの事例は、今後の観光開発の一つの方向性となり得るのではないか。

 

22 神奈川県における少子高齢化~保育園と老人ホームから見る現状と課題~

 筒井華恋・森柚季(新羽高校)

少子高齢化は全国的な課題であり、地域によって状況や対策が異なっている。私たちは身近な地域である神奈川県に注目し、少子高齢化の進行について、自治体ごとの保育園と老人ホームの施設数と利用者数の変化について、過去の統計データと比較し、GISを用いて地図上に示しながら分析を試みた。調査地域について、全国的傾向と同様、年少者の数が減少し高齢者が増加している傾向が読み取れた。特に一部の地域では、老人ホームの整備が進む一方で、保育園が不足している現状も見られ、子育て世代への支援が追いついていないことが分かった。さらに保育士として働く親にインタビューを行い、保育士不足や待機児童、保護者の負担など現場の課題についても意見を求めた。少子高齢化は単なる数字の問題ではなく、地域の制度や生活環境に深く関わっていると感じた。私達若い世代が安心して子育てでき、高齢者も安心して暮らせる地域社会を創ることが重要だと考える。