2018年春季学術大会:会長講演のお知らせ

下記の通り会長講演を行いますので多数御参加下さい.

1.日 時 3月22日(木)17時~17時45分

2.場 所 東京学芸大学S棟第10会場(S410教室)

戸所 隆(高崎経済大学名誉教授):知識情報社会への転換を妨げる日本の地域システムと地理学界への期待

 私は過去50年にわたり大学を拠点に都市地理学を中心に研究をしてきた.この50年間の前半で日本は最先端の豊かな工業社会を構築したが,その後の知識情報社会への転換は遅々としている.その要因として縦型から横型へ構造転換できない日本人の意識や地域社会システムがあり,その改善における地理学の役割は大きい.本講演では研究を通して認識した地理学の重要性・役割と特に地理学界への期待を述べたい. 私の地理学研究は都市化による都市構造の変化を動的把握する都市空間の立体化研究から始まり,今日までの私の研究基盤になっている.すなわち,都市機能・人口の集積や高度化は市街地の外延的拡大とともに都心の立体的再開発を促し,水平的機能分化と同時に垂直的機能分化を惹起させ,都市・都市圏構造が再構築される実態を明らかにできた.また,以上の都市圏全体の機能配置やその動向から構造変化を俯瞰的に捉えることで,都市圏内ネットワークの構造変化を見出すことができた.

 日本の国土構造・都市システムは東京を最上位とする垂直統合型であり,中央集権政治体制のもと先進諸国を追尾する高度経済成長期には効率良い構造であった.しかし,1980年代後半から垂直統合型国土構造の中で,都市を分節化・ダウンサイジングして個性化(分都市化)と水平ネットワークで構造転換する動きが京阪神で見られた.また,東京の副都心も都心化し,都心-副都心-副副都心と階層化した構造から新宿・池袋・渋谷・品川などが自立性を高めダウンサイジング・ネットワーク構造に転換してきた.この構造はコンピュータ・ネットワークと同じである.そこで規模の大小,中心と周辺はあるが,上下関係のない水平ネットワーク型の「大都市化・分都市化型都市構造」に再構築される概念を創出した.この概念は個性あるまちづくりやコンパクトシティ形成,分権型合併を理念とした平成の大合併や国土政策にも活用している.

 知識情報化社会の地域システムにはコンピュータ・ネットワークに適した構造が求められる.経済システムや経済活動の活発な大都市圏構造は,情報化・国際化の動きに対応して大都市化・分都市化型に転換することで一定の成長を見た.しかし,農業文化時代の首都・京都,工業文化時代の首都・東京から脱却して情報文化時代の新しい首都を創造する国土構造改革は頓挫している.その結果,東京一極集中・地方衰退問題が解決できず,既存国土基盤も充分に活かせずに国際社会での日本の地位低下を招いている.この大きな要因として階層型固定電話システムに代表される垂直統合型の地域社会システム・国民意識・開発哲学があると考える
日本がバブル崩壊以降の失われた20年から脱却できないのは,国土構造をはじめ多くの地域社会システムが従前の閉鎖型垂直ネットワークで,システム相互間にミスマッチが生じるためと考える.再成長には地域社会システムや国民意識を開放型水平ネットワークに転換させる必要があり,地理学の果たす役割が大きい.

 地理学は人文・自然分野がそれぞれ高度にダウンサイジングしつつ専門分化し,それらが相互に協力して多様性ある地域現象を時空間的・俯瞰的に総合化して新しい価値・考えを創出している.今日の学問が極端な専門分化により全体像を見失う中にあって,地理学会は大都市化・分都市化型都市構造同様に分都市にあたる都市・経済・歴史地理学や地形学・水文学などを水平ネットワークするプラットフォームとして地理学の価値を高めてきた.しかし,地理学の社会的有意性・認知度の向上には研究者・起業家・出資者・実務家(開発・製造・販売など)の集うプラットフォームの更なる強化が必要となり,地理学会の改革が求められる.また,地理学界の総力で多くの大学に地理学部を創設し,地理学の見える化を図ることが期待される.