日本地理学会 2005年度春季学術大会 プログラム

会長講演


下記のとおり会長講演を行いますので多数御参加下さい.
日時:3月28日(月)17時00分〜17時50分
会場:第1会場

斎藤 功(筑波大)
フィールドワークの醍醐味
 ―― 景観・土地利用と土地所有・聞き取り ――

 「地理学はフィールド科学である」ことは論をまたない.これまで演者は東京集乳圏における酪農地域,日本のブナ帯地域でフィールドワークを,また外国ではブラジル北東部,アメリカのハイプレーンズなど半乾燥地域でフィールドワークを実施してきた.茶褐色の乾燥地域で目立つものは緑色の灌漑農地であり,その施設はセンターピボットを使った大規模なものから,小規模な井戸まで多様である.しかし,面積的にみれば,灌漑の行われていない,手つかずの茶色の世界が多いように思われる.このような土地もバラ線が張られていて,牛やヤギや羊の放牧地として利用されている.この点が日本と欧米世界と大きく異なる土地利用だといえよう.

 1992年のワシントンでのIGUの会議後,レンターカーでカリフォルニアの高速道路を走っていると一面の果樹畑から突然トウモロコシやアルファルファ畑に変わった.高速を降りて酪農家を訪れると700頭の乳牛を搾っているという.その場所は,現在アメリカ最大の酪農郡とされるチュラーレ郡であった.また,ブラジル北東部の調査の帰りにアゾレス諸島を訪れ,昔の日本の酪農と類似した風景をみて,そこからアメリカへの移住者が重要な役割を果たしているカリフォルニア州の酪農について調べてみようという衝動にかられた.以来,折りに触れカリフォルニア州の酪農地域を訪れて資料を集めたり,土地利用,聞き取り調査を実施してきた.ここではそれらの成果を踏まえ,カリフォルニア州を中心にみられる大規模酪農の立地移動を事例にフィールドワークの醍醐味について話してみたい.

 周知のように大都市で消費される牛乳は,その腐敗しやすい性質から酪農家が都市に近接して立地した.ロサンゼルスでは都市の膨張につれて酪農地域がアルテジア地域からチノ平野 Chino Valley をへてサンホワキンバレーに移転した.さらに,現在ではオレゴンやアイダホなどの北部諸州,さらにはロッキー山脈を越へ,カンザス州,テキサスパンハンドルなどハイプレーンズ諸州に立地移動して,メガデリーと呼ばれる大規模な酪農経営が営まれている.

 講演では以下の内容で話してみたい.

  1. 景観からわかる牧畜社会
  2. 地形図と航空写真による酪農景観の復元 ―― 1950年 ――
  3. 土地利用調査からわかる地域変化 ―― Chino Valley ――
  4. 地籍図(土地所有図)を活用した酪農家の復元 ―― 1975年 ――
  5. 聞き取りからわかる酪農家の移動歴 ―― カーン郡の場合 ――
  6. 総合的にみた酪農家の立地移動 ―― 州内移動と州外移動 ――