地理学評論 Vol. 90, No. 1 2017 年 1 月

●―論 説 
ボランタリー組織の台頭と「地域」の多層化
──名古屋市緑区の災害ボランティア団体を事例に──
前田洋介・1‒24 
バブル経済崩壊後の大阪大都市圏における戸建住宅供給
──既成市街地での供給を中心に──
熊野貴文・25‒46 
 
●―資 料 
農鳥岳東面,広河内の段丘地形を構成する完新世初頭の斜面崩壊・土石流堆積物
苅谷愛彦・西井稜子・47‒52
 
●―書 評
七山 太・中里裕臣・大井信三・中島 礼:
茂原地域の地質 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)(鈴木毅彦)・53‒54 
 
柳田良造著:
北海道開拓の空間計画(德安浩明)・54‒56 
 
山下清海:
新・中華街──世界各地で「華人社会」は変貌する――(杜 国慶)・56‒58
 
学界消息・59‒60 
 
2016年日本地理学会秋季学術大会および秋季代議員会記録・61‒63
 
会  告・表紙2,3および64‒65 
 
2017年春季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2,3
 
 
 

論説

ボランタリー組織の台頭と「地域」の多層化──名古屋市緑区の災害ボランティア団体を事例に──

前田洋介
新潟大学教育学部

従来,日本の「地域」は町内会などの地縁組織を中心に編成されていた.しかし,今日では,ボランタリー組織など,地縁組織とは地理的・社会的に特徴を異にする新たな組織もまた,「地域」を構成するようになっている.本稿は,名古屋市緑区で活動する災害ボランティア団体を事例に,活動の展開の詳述を通じ,ボランタリー組織が地縁組織を中心とした既存の「地域」にどのように織り重なっていくのか検討した.同団体は設立当初,「地域」と接点を有していなかったが,公的機関とスムーズに連携できたことや,さまざまな動機で集まったメンバーのネットワークにより,地縁組織やほかのボランタリー組織と接点を築きながら,「地域」での防災活動の場を増やしていった.同団体の活動は,既存の「地域」を補完する一方で,既存の「地域」を前提としながら,地縁を越えたネットワークによる新たな「地域」の担い方を実践していると特徴づけられる.

キーワード:「地域」,ボランタリー組織,災害ボランティア,大都市圏郊外,名古屋市緑区

(地理学評論 90-1 1-24 2017)

 

論説

バブル経済崩壊後の大阪大都市圏における戸建住宅供給──既成市街地での供給を中心に──

熊野貴文
京都大学大学院生・日本学術振興会特別研究員

本稿では,大阪大都市圏を対象に,バブル経済崩壊後の戸建住宅供給の動向を分析し,社会経済的状況の変化が戸建住宅開発にどのように影響しているのか検討した.その結果,バブル経済崩壊後,インナーシティやスプロール郊外としての背景をもつ1975年時点での既成市街地における再開発的な戸建住宅供給の比重が増してきたことが明らかとなった.しかし,それは人口減少や住宅の老朽化の進む地域における小規模で断片的な再開発であり,地域人口の増加には必ずしもつながっていなかった.こうした既成市街地での戸建住宅開発には,バブル経済の崩壊や産業構造の変化などの経済的要因のほか,住民の高齢化や住宅の老朽化という人口と住宅のライフサイクルの影響が大きいことが確認された.以上の知見は,都市圏の構造変化と住宅供給の関係について,既成市街地における再開発的な戸建住宅供給の重要性を示すものである.

キーワード:戸建住宅開発,既成市街地,人口と住宅のライフサイクル,バブル経済崩壊,大阪大都市圏

(地理学評論 90-1 25-46 2017)

 

資料

農鳥岳東面,広河内の段丘地形を構成する完新世初頭の斜面崩壊・土石流堆積物

苅谷愛彦・西井稜子**
専修大学文学部,**土木研究所

キーワード14C年代,マス・ムーブメント,気候変化,赤石山脈

(地理学評論 90-1 47-52 2017)