地理学評論 Vol. 89, No. 4 2016 年 7 月

●―論 説

食品企業による生鮮トマト栽培への参入とその地域的影響――カゴメ(株)による高知県三原村への進出を事例に―― 後藤拓也・145165

●―短 報

東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容――経営者のエスニック戦略に着目して―― 金 延景・166182

●―書 評

山下清海編著: 世界と日本の移民エスニック集団とホスト社会――日本社会の多文化化に向けたエスニック・コンフリクト研究――(杉浦 直)・183184

山下清海編著: 改革開放後の中国僑郷――在日老華僑・新華僑の出身地の変容(小島泰雄)・184186

戸井田克己: 青潮文化論の地理教育学的研究(村山朝子)・186187

UNEP(国連環境計画)編,青山益夫訳: GEO-5 地球環境概観 第5次報告書 上 ――私達が望む未来の環境――(一ノ瀬俊明)・188189

地理学関係博士論文要旨(2015 年度)・190196

学界消息・197199

日本地理学会春季学術大会および臨時総会・春季代議員会記録・200205

会  告・表紙2, 3および206210

2016年秋季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2, 3

 

 

論説

食品企業による生鮮トマト栽培への参入とその地域的影響──カゴメ(株)による高知県三原村への進出を事例に──

後藤拓也
高知大学人文学部

本稿では,カゴメ(株)を事例に,大企業が広域的な農業参入をどのように進め,それが地域にいかなる影響を与えるのかを,地理学的な視点から検討した.カゴメは1990年代の早い時期から生鮮トマト栽培に参入し,リスク分散や周年生産を重視しながら多元的・広域的に生産拠点の形成を進めてきた.特にカゴメは,西日本の中山間地域に多くの直営農場を設立したが,これらは過疎に悩む自治体からの誘致によるものである.実際,高知県三原村では,村が多額の予算を投じてカゴメの農場建設を支援していた.カゴメの進出によって,三原村では農業生産額が大きく伸び,若年層が従業員として周年雇用されるなどの効果が認められる.しかし三原村の事例からは,農場立地に伴う地域農業への波及効果は乏しく,また農場の従業員は大半が村外から雇用されるなど,カゴメ誘致の効果が必ずしも自治体や地域農業に還元されていないという問題点も明らかになった.

キーワード:企業の農業参入,フランチャイズ型農業,生鮮トマト栽培,植物工場,カゴメ(株),高知県三原村

(地理学評論 89-4 145-165 2016)

 

 

短報

東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容──経営者のエスニック戦略に着目して──

金 延景
筑波大学大学院

本研究は,東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容を,経営者のエスニック戦略の分析から明らかにした.大久保地区では,韓国人ニューカマーの増加に伴い韓国系ビジネスが集積し始め,その後一般市場へ進出していった.その背景には,韓流ブームによって開かれたホスト社会の機会構造の下,経営者が用いたエスニック戦略の役割があった.韓国系ビジネスでは,ホスト社会の需要を事前に把握した経営者が,豊富な人的資源を用いて韓国飲食店のほか,韓流グッズ店や韓国コスメ店など韓国文化の商品化を通じた娯楽性の高い新業種を展開する多角経営を行うと同時に,日本人顧客の確保に重点を置いた立地戦略をとっていた.その結果,大久保地区の韓国系ビジネスは,従来の同胞顧客に向けた財やサービスの提供機能に加え,広域なホスト社会の日本人顧客に向けてエスニック財やサービスを提供する娯楽機能を有するようになったといえる.

キーワード:韓国系ビジネス,エスニック戦略,韓流ブーム,新宿区,大久保地区

(地理学評論 89-4 166-182 2016)