地理学評論 Vol. 87, No. 4 2014 年 7 月

●―論 説

研究開発機能の組織再編と立地履歴――旧財閥系総合化学企業における空間的分業の事例―― 鎌倉夏来・291313

●―短 報

富山市のクラスター型コンパクトシティ政策と郊外のアクセシビリティ――婦中地域におけるシミュレーション―― 秋元菜摘・314327

●―書 評

池谷和信編: ネイチャー・アンド・ソサエティ研究 第2 生き物文化の地理学(香川雄一)・328329

松井圭介: 観光戦略としての宗教――長崎の教会群と場所の商品化――(佐藤大祐)・329331

山本晴彦: 帝国日本の気象観測ネットワーク――満洲・関東州――(吉野正敏)・331334

小野有五: たたかう地理学 Active Geography(中島弘二)・334335

小倉紀雄・竹村公太郎・谷田一三・松田芳夫編: 水辺と人の環境学 上巻―川の誕生,中巻―人々の生活と水辺,下巻―川から海へ(須貝俊彦)・335337

須山 聡編: 奄美大島の地域性――大学生が見た島/シマの素顔――(宮内久光)・337339

平井松午・安里 進・渡辺 誠編: 近世測量絵図のGIS 分析――その地域的展開――(堀 健彦)・339340

F. ムニョス著,竹中克行・笹野益生訳: 俗都市化――ありふれた景観 グローバルな場所――(荒又美陽)・340342

地理学関係博士論文要旨(2013年度)・343348

藤原健藏先生のご逝去を悼む・349350

斎藤 功先生のご逝去を悼む・351352

学界消息・353355

日本地理学会春季学術大会および臨時総会・春季代議員会記録・356361

会  告・表紙2, 3および362366

2014年秋季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2, 3

 

 

論説

研究開発機能の組織再編と立地履歴──旧財閥系総合化学企業における空間的分業の事例──

鎌倉夏来
東京大学大学院生・日本学術振興会特別研究員

本稿では,住友化学,三井化学,三菱化学といった旧財閥系総合化学企業3社を取り上げ,研究開発組織や拠点の立地履歴,拠点間の知識フローを明らかにし,研究開発機能の空間的分業の特徴と今後の課題を検討した.化学産業では,地方の生産拠点に近接した研究開発拠点の立地が見られるが,特に住友化学では拠点ごとに分散した研究開発活動が行われていた.これに対し,1990年代のグループ内企業の合併により誕生した三菱化学と三井化学では,研究開発拠点の再編が進められ,基礎研究を担う首都圏の中核的な拠点への集約が顕著であった.こうした立地と組織の違いを反映して,住友化学では事業部ごとの「縦の」知識フローが,三井化学と三菱化学では研究開発組織間の「横の」知識フローがそれぞれ中心となって,研究開発機能の空間的分業が構築されていた.これらの差異は,海外拠点との研究開発機能の空間的分業にも現れていた.

キーワード:研究開発,グローバル化,空間的分業,組織構造,知識フロー,化学産業

(地理学評論 87-4 291-313 2014)

 

短報

富山市のクラスター型コンパクトシティ政策と郊外のアクセシビリティ──婦中地域におけるシミュレーション──

秋元菜摘
東京大学大学院生

地方都市郊外では,高齢化に伴い自動車に依存しない生活環境を実現する必要性が高まっている.富山市のクラスター型コンパクトシティ政策は,郊外拠点と都心を結ぶ公共交通の運行頻度の向上と,公共交通沿線に設定された居住推進地区への人口の集約化を軸として,日常生活におけるアクセシビリティ問題の解決を図るものである.本研究では同政策の内容に即した条件を設定し,富山市婦中地域において生活関連施設へのアクセシビリティをシミュレーションすることで政策の効果を定量的に示した.その結果,周辺部の50%以上の人口が居住推進地区に移住した場合にアクセシビリティが最も改善されることが明らかになった.また,高齢者は周辺部での居住比率が高いためにアクセシビリティが改善されやすいことも判明した.中長期的視点から高齢者を中心として居住推進地区への移住を促進しつつも,短期的には公共交通の運行頻度を高めることがアクセシビリティの改善に効果的である.

キーワード:アクセシビリティ,シミュレーション,コンパクトシティ政策,郊外,富山市義

(地理学評論 87-4 314-327 2014)