日本地理学会賞受賞候補者選考委員会

2007年度活動報告
 委員長:山田 誠
 委 員:特別賞・優秀賞選考小委員会:山田 誠、内田和子、内山幸久、牧田 肇、今泉俊文、海津正倫、林 陽生、山野正彦
 奨励賞選考小委員会:磯  望、松岡憲知、青木英一、生田真人、小野寺 淳、鈴木裕一、中川清隆、西原 純、渡辺悌二

 本委員会は特別賞・優秀賞選考小委員会(委員長:山田 誠)と奨励賞選考小委員会(委員長:磯 望)に分かれて学会賞受賞候補者の選考を行った。
 奨励賞は2006年9月から2007年8月までに刊行された『地理学評論』に掲載された論文・短報から受賞対象(著者が35歳未満で過去に奨励賞を受賞していない者)となる16編について審査を行った。対象論文に対して委員による2段階の審査・投票を行い、最終的に奨励賞受賞候補者として下記の2名を決定した。
 優秀賞は『地理学評論』10月号に学会会員向けに推薦依頼を掲載して呼びかけ、理事・代議員には別途呼びかけ文を郵送した(推薦締切は11月15日)。その結果6件(5名の個人と1つの団体)の候補者の推薦があり、対象文献の査読および審査を行った結果、最終的に優秀賞受賞候補者として下記の2名を決定した。並行して特別賞の選考を行い、優秀賞として推薦のあった1団体を特別賞受賞候補として決定した。

日本地理学会賞(奨励賞)受賞候補者:柚洞一央君
 「日本の養蜂業における移動空間の狭域化と生産形態の多様化」『地理学評論』79巻13号
 本論文は、第2次大戦後以降の養蜂業者の経営形態や経営慣行および移動空間の変化などに着目しつつ、衰退傾向にある養蜂業の経営や移動の最近の傾向を、全国131の養蜂業者への聞き取り調査や参与観察方式の現地調査などをもとに行動論的にも検討していて、その研究方法には注目すべき点が少なくない。著者は、レンゲ・ナタネ等の蜜源となる植物の作付が激減したことを明らかにし、蜜源植物の作付の変化が養蜂業の移動空間の単純化や狭域化に結びつく状況などを解明することに成功した。また、養蜂業の目的が、生産量の不安定な蜂蜜生産から、安定的なローヤルゼリー生産や農家に依頼されたイチゴ・果樹等のポリネーション(受粉)へと多様化しつつあり、これに伴い一層移動空間の狭域化が促進されたことを示した。さらに経営者の高齢化問題・利用権問題等・蜜源確保のための自然林保全運動の展開などについても指摘し、自然資源の「間接的利用」である養蜂業のもつ、人・社会・自然の共存への課題を明確に示した点は、人文地理学的手法を基礎としながら自然地理学的見方を含めることのできる地理学の総合性を遺憾なく発揮した成果として、高く評価できる。よって、柚洞一央君を日本地理学会賞(奨励賞)の受賞候補者として推薦する。

日本地理学会賞(奨励賞)受賞候補者:梅田克樹君
 「Development and Sustainability of Vegetable Farming in Geothermal Greenhouses: A Case Study of Nigorikawa Area in Mori Town, Hokkaido」Geographical Review of Japan Vol. 80, No. 5.
 本論文は、地熱や温泉水を利用して1970年代から展開してきた北海道森町濁川地区の温室野菜作の発展過程と最近の課題について、現地調査を基礎的なデータとして、さらに多くの統計資料の裏付けに基づいて、鮮明に明らかにしたものである。とりわけ農学分野を中心に取り上げられることの多かった施設園芸農業というテーマを、地熱利用という側面を含めて地理学的に取り扱ったことで、研究成果が鮮明となっている点は高く評価できる。本論文は、北海道における温室トマト生産の先進地域である濁川地区での持続的なトマト生産の展開を軸に、価格と質の維持には環境にやさしい農業の展開が必要であることを的確にとらえたものであり、全国的な施設園芸農業展開に対する課題を含んだ、スケールの大きさを感じさせる論文となっている。著者は、濁川地区が1970年代に温泉水を利用した温室野菜作を開始し、1980年代には安価なエネルギー資源である地熱発電の余剰水を利用して温室野菜作拡大に成功したこと、しかしその後、地熱資源がピークに達したことにより、温室数は増加せず、結果として大都市の需要を満たし輸送コストを削減できる大量生産地化ができなかったこと、また、連作と化学薬品の大量使用による作物品質と価格が低下したこと、安全な野菜を要求する消費者ニーズの変化により、安全で高品質な野菜作への転換が必要であることなど、持続的な農業展開に必要な課題について、明快に指摘することに成功した。地熱という火山国日本に特徴的な資源を利用した園芸農業の展開を英文誌で報告している点も、日本農業の一側面の海外への紹介という観点から、評価すべきものがある。よって、梅田克樹君を日本地理学会賞(奨励賞)の受賞候補者として推薦する。

日本地理学会賞(優秀賞)受賞候補者:島田周平君
 島田周平君の受賞対象図書は、①『アフリカ 可能性を生きる農民―環境‐国家‐村の比較生態研究―』(京都大学学術出版会、2007)と②『現代アフリカ農村―変化を読む地域研究の試み―』(古今書院、2007)である。これらはいずれも、ナイジェリアとザンビアにおける長期間の村落調査の結果をもとに、ポリティカル・エコロジー論の視点から、村の農業や生業活動の変化をマクロレベルの政治経済的変化と関連づけながら分析した研究である。①は、地域間比較研究の具体的方法を提示しつつ、地域研究における地理学的視点の重要性を指摘しており、また②は、地域を総体的にとらえることの現代的意義を明らかにし、地理学における地域研究の必要性を訴えている。両書とも、豊富な図表と写真で村の変貌を鮮やかに描き出しており、優れた地域研究書である。よって、島田周平君を日本地理学会賞(優秀賞)の受賞候補者として推薦する。

日本地理学会賞(優秀賞)受賞候補者:松原 宏君
 松原 宏君の受賞対象図書は『経済地理学―立地・地域・都市の理論―』(東京大学出版会、2006)である。本書は、古典的立地論から、多国籍企業論やクラスター論などの現代的な展開までの経済地理学の総合化を図り、立地・地域・都市の領域からなる独自の理論体系を構築した点で現段階での総括的な意義をもつものであり、単著としては国内外にも例を見ないものである。理論的には圏域型とネットワーク型の2類型を提示したことが特徴で、グローバリゼーションをめぐる構図を明確に位置づけている。この点は地域政策論の上からも、従来の地域論を再定義する圏域性とその制度的・文化的性格、および世界都市や産業政策とそのネットワークをめぐるイノベーションと競争の視角の両面として、新たな問題提起となっている。よって、松原 宏君を日本地理学会賞(優秀賞)の受賞候補者として推薦する。

日本地理学会賞(特別賞)受賞候補者:『日本の地形 全7巻』全巻編集委員会(故貝塚爽平・太田陽子・小疇 尚・小池一之・鎮西清高・野上道男・町田 洋・松田時彦・故米倉伸之)および各巻編集委員会(上記のほか、海津正倫・遠藤邦彦・岡田篤正・小野有五・河名俊男・小泉武栄・鈴木毅彦・田中眞吾・田村俊和・長岡信治・成瀬敏郎・平川一臣・宮城豊彦・森脇 広・山崎晴雄)
 本シリーズは、日本で初めて全国を網羅した地形誌であり、日本の国土・自然環境を形成する地形の成り立ちを、地形の形成史に重点を置いて、地域ごとに詳細にまとめたものである。また本シリーズは、写真・図版や国土数値情報に基づく地図を豊富に用いるとともに、従来の研究を総括して、自然史と人間活動が刻まれている日本列島の姿を浮き彫りにし、風景にひそむ自然の成り立ちを解き明かし、地形の理解に加えて、地形環境の保全、自然災害対策や国土計画の基礎資料として利用可能であることを意図して刊行され、その意図は十分にかなえられている。本シリーズは、地理学のみならず、地球科学、環境科学、防災科学などにも貢献するものであり、貴重な研究成果と言うことができる。よって、その企画・完成に尽力した全巻編集委員会および各巻編集委員会を、日本地理学会賞(特別賞)の受賞候補者として推薦する。
 
2006年度活動報告
 委員長:境田清隆
 委 員:特別賞・優秀賞選考小委員会:境田清隆、貞方 昇、溝口常俊、吉越昭久、内田和子、内山幸久、牧田 肇、山田 誠
 奨励賞選考小委員会:伊藤 悟、大場茂明、佐藤典人、関戸明子、富樫幸一、檜垣大助、宮原育子、磯  望、松岡憲知

 本委員会は特別賞・優秀賞選考小委員会(委員長:境田清隆)と奨励賞選考小委員会(委員長:伊藤 悟)に分かれて学会賞受賞候補者の選考を行った。
 奨励賞は2005年9月から2006年8月までに刊行された「地理学評論」に掲載された論文・短報から受賞対象(著者が35歳未満)となる21編について審査を行った。対象論文に対して委員による2段階の審査・投票を行い、最終的に奨励賞受賞候補者として下記の2名を決定した。
 優秀賞は地理学評論10月号に学会会員向けに推薦依頼を掲載して呼びかけ、理事・代議員には別途呼びかけ文を郵送した(推薦締切は11月15日)。その結果3名の候補者の推薦があり、対象文献の査読および審査を行い、最終的に優秀賞受賞候補者として下記の2名を決定した。並行して特別賞の選考を行ったが、今回は候補者なしと決定した。

日本地理学会賞(奨励賞)受賞候補者:中辻 享君
  「ラオス北部焼畑山村にみられる生計活動の世帯差-幹線道路沿いの一行政村を事例として-」『地理学評論』第78巻11号
 本論文は、ラオスの山村において、米の栽培面積・収量・収穫米の年間収支などに関する精緻な聞き取り調査とGPSによる実測などから、タイ系低地民族と焼畑民族の生計に関する比較研究を試みたものである。精緻な実態調査と新たな地理学的手法の導入が、米の収支や貸借の問題から、家畜飼育やハトムギ栽培などの現金収入の分析、さらに経済格差の拡大問題の指摘に至るまでの、堅実な研究成果として結実している。困難の多い海外調査において詳細な現地調査を実施した点は高く評価され、農業社会の構造変化の実態を詳細に浮き彫りにし、経済地理学を始めとした地理学の将来性を示す、優れた論文である。また、本論文は投稿時から完成度の高い論文であったことが伺われ、筆者が研究者としての資質を既に十分に備え、今後ますますの活躍が期待される。
以上の評価から、日本地理学会賞(奨励賞)の候補として推薦する。

日本地理学会賞(奨励賞)受賞候補者:武者忠彦君
 「松本市における中心市街地再開発のメカニズム-土地区画整理事業をめぐる制度・都市政治・商店経営者の戦略-」『地理学評論』第79巻1号
 今日、わが国地方中小都市における駅前や中心市街地商店街の衰退が著しい中で、本論文は松本市を対象に、地方都市の中心市街地再開発という社会的課題に意欲的に取り組んだ研究である。すなわち、本研究の意義は、中心市街地再開発事業を外部要因のみならず、地方政治や伝統的商店街の経営者たちの対応など、ローカルな文脈で考察した点にある。とりわけ、商店主の多様かつ自律的な選択に基づく経営戦略に関する詳細な分析から再開発のメカニズムを解明し、従来の政策モデルの限界を示したことは、きわめて高く評価される。また、インタビュー内容を議事録などの一次資料を用いて検証した上で評価するなど、研究方法も当を得たものといえる。その結果、本論文は、同様の関心をもつ他学問分野にも十分にアピールし、今後の行政施策にも生かせる実証性の高いものとなっている。
以上の評価から、日本地理学会賞(奨励賞)の候補として推薦する。

日本地理学会賞(優秀賞)受賞候補者:池谷和信君
 池谷和信君の受賞対象図書は①『山菜採りの社会誌-資源利用とテリトリー』(東北大学出版会、2003)と②『現代の牧畜民-乾燥地域の暮らし』(古今書院、2006)である。①は日本の山菜採りのすぐれた生態地誌であると同時に、テリトリー制の形成と機能をポリティカルエコロジー(政治生態学)の観点で論じた意欲作である。また②は地球環境と世界の牧畜民という壮大な枠組みの中で、アフリカとアジアの商業牧畜民を比較検討したきわめてスケールの大きな研究成果である。同君は徹底した地理学的フィールドワークにもとづき、地域の自然・生態系の深い理解にたって、そこに展開されている人々の生活を文化人類学・民族学など幅広い分野の手法を取り入れつつ明らかにしていく研究を続けてきた。これら2冊の単著に加え共編著もあり、積極的な活動ぶりは、関係諸学に刺激的な影響を与えており、学会賞(優秀賞)にふさわしい候補として推薦する。

日本地理学会賞(優秀賞)受賞候補者:岡橋秀典君
 岡橋秀典君の受賞対象図書は①『インドの新しい工業化』(古今書院、2003)と②『二つの大国の 変貌-グローバリゼーション下のインドと中国-』(総合地誌研 研究叢書、2005)である。①は「変 わるインド」の最前線である大規模工業団地を調査地域にしたフィールドワークの成果で、インドの将来や日本との関係を考える上でも重要な意味をもっている。②は1990年代以降のインドの変貌を中国との比較を通して検討した先駆的なシンポジウムの成果である。両書はグローバル化によって生ずるインド・中国国内の地域的差異に注目した意欲的な研究成果である。同君を代表とするこの調査チームは、国際間比較のみならず、グローバル化によって生ずる地域間問題を常に扱っており、他分野とは異なる地理学の独自性が認められる。その組織力と編集能力さらに研究者養成力は際だっており、地理学界に大きな貢献をなしてきた。学会賞(優秀賞)にふさわしい候補として推薦する。
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